"月に願いを"
「みゃあ」
見回りをしようと懐中電灯を片手に廊下に出てからまだ二歩程、急に処置室に入っていった。跡をついて行くと窓辺に飛び乗って空を見上げながら一声鳴いた。
「どうした?」
月明かりでほんのりと明るい室内を進み、窓の外を見上げる。
「おぉ……」
見上げた視線の先に、優しい光を放つ月が夜空に昇っていた。真ん丸では無いが、その形もまた美しい。
「みゃあ」
月に見惚れていると、ハナが甘えるように鳴きながら俺の腹に前足をかけてきた。
「抱っこか?」
んしょ、と抱き上げてやると、喉を鳴らしながら身体を弛緩させて腕の中に収まった。
そんなハナに小さく笑い、再び月を見上げる。
──これからも、平穏が続きますように。
祈るように心の中で呟く。
ハナを床に下ろし「行くぞ」と懐中電灯の灯りをつけて、改めて見回りを始めた。
5/26/2024, 12:31:24 PM