mitako

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ガチャ
一人になったマンションの部屋の扉が突然開いた。
そこには誰もいない。

でも、ふわりと懐かしい香りがする。
大好きだった彼の匂い。
香水でもなく、柔軟剤でもなく、
彼そのものの匂い。

そっか。帰ってきてるんだ。
突然来るなんて本当に君らしい。
涙が溢れて止まらない。
傍にいることは分かっているのに、
見ることも触れることも触れられることもできない。

君はいつもそうだった。
告白しようとして何度も言い出せなかったこと、
手を繋ごうとして照れてしまったこと、
キスしようとして恥ずかしくなったこと、
全部知ってるんだからね。
やっと付き合えたのに。
結局君に触れられないままのお別れになった、
私の身にもなってほしいよ。

風が私の涙を拭うように顔を撫でた。
少しくすぐったいような、寂しいようなそんな気持ちになる。

「君との恋はほんとにもどかしいね、これまでもこれからも」

8/28/2023, 12:41:12 PM