せつか

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あの男は終わりを見届けることは出来るが自分では終わらせられないんだ。

あらゆる者が自分の望む物語の結末を求めて、あの男に自分の理想を押し付ける。
ある者は理想の恋人を。
ある者は理想の騎士を。
ある者は最高の友を。
そしてある者は憎むべき怨敵を。

そうやって自分の望む結末が得られるまで、世界はあの男を振り回す。
終わらないんじゃない。終わらせられないんだ。
自分の意思で動いているように見えるが、その実なにかに動かされているだけなんじゃないかと、思うことがある。
自身に生まれた恋心さえ·····。

「ずいぶん同情的だねえ」
鏡のように静まり返った湖を見ながら、男が呟く。
黒髪の男はそれには答えず、つまらなさそうに湖を見つめたまま、微動だにしない。
「その、物語を終わらせられない彼が選んだ結末が〝コレ〟とはね」
最後に会ったのはいつだったか。
声に覇気は無く、それでもこの結末を選ぶような諦観は感じられなかった。
それすらもこちらが都合よく思い込んでいただけだろうか。

「お前は知っていたんじゃないか?」
「さあ·····どうだろうね」
「どうせまたすぐに会うことになる」
「さて、〝次〟はどんな風に出会うのかな」
「いい加減終わらせたいのは私も同じなんだがな」
「そう簡単には終わらないよ。〝彼女〟は永遠が好きだから」
「·····忌々しい」

湖は何も応えず、ただ静かに凪いだままだった。


END


「終わらない物語」

1/26/2025, 4:07:36 AM