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▶134.「叶わぬ夢」
133.「花の香りと共に」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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フランタ国の花街にて

「…という訳なの。しばらく来られないからと仰ってね、だから次に来た時に答えが欲しいそうよ。よく考えてちょうだいね、子猫ちゃん」
「はい、分かっています」
「やだ、そういう意味じゃなくて。自分の為によ?本当に分かってる?」
「ありがとうございます、女将さん。ちゃんと、よく考えますから」


はっと我に返った子猫が座っていたのは、自室のベッドだった。

「あら、私ったら…」

子猫は廊下に面したドアが閉まっているのを見て、
覚えはないが自分で閉めたのだろうなと、ぼんやり考えた。
そのまま虚空を見つめる子猫の頭の中を巡るのは、女将に言われた言葉。


(どうしたらいいのかしらね…)
ぼふん、とそのまま服のしわも気にせずに倒れ込んだ。



こんな良い話を蹴る奴が、どこにいるというのか。

女将さんもああ言ってはくれたが、今までの店への恩を返すには絶好の機会だ。
それに、仮に断ったとして、そのお得意さんの足が遠のいてしまったら?

選択肢があるようで、考えれば考えるほど一択に絞り込まれてしまう。


「身請けかぁ…」

こちらの籠からあちらの籠へ。

これでは猫ではなく飼われた鳥だ。


ちら、と机の置いてある方に視線を送る。
今は目線が低くて見えないが、机の上には縫いかけの服が置かれている。

仕上がれば、軽やかな春を表現した装いが出来るだろう。
子猫はこれを、客の前に出る仕事用ではなく、
プライベートな外出用として仕立てていた。

自分を買う資金が貯まるまで、あと少しだったから。


「外、出てみたかったな」


涙の止まらない理由を無視して、

(この涙は眠くて欠伸をしたから、そのせいだから)



子猫は目を閉じた。

3/18/2025, 9:47:22 AM