安達 リョウ

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蝶よ花よ(足掻いても敵わない)


もう疲れた、俺は疲れた。
早く夏休み終わってくんねーかなあ。

年の離れた双子の世話を、毎日朝から晩まで見るのはしんどい以外の何物でもない。
始めは親から押し付けられて渋々面倒を見ていたが、そのうち双子どもは何もなくても俺に相手をしろと宣うようになっていた。
………しんどい。実にしんどい。

「にいに遊ぼ。なわとび」
「こんな炎天下で縄跳びしたら死ぬよ。いいの?」
「にいに遊ぼ。すけぼー」
「だから外は無理なの。焼け焦げて息絶えるから」

こんっな真夏の最高気温叩き出してる太陽を見て、どうしたらそんなにアクティブになれるんだ? しおらしくお絵描きでもしてりゃ可愛げもあるってのに。
―――俺はソファに寝そべって棒アイスを齧りながら、双子の催促を適当にあしらう。

「にいにが遊んでくれない」
「くれない」
唐突に悲しげに沈む、今にも泣き出しそうなその表情。
俺はそれに敏感に反応すると、慣れた手つきで掌をひらひらと振った。
「ざーんねん、その手には乗らねーよ。お前らの泣き落としなんぞこちとら見飽きてんの。無駄な足掻きはヤメなさい」

「「む」」

双子の表情一転、可愛いお目々の眉間にシワが刻まれる。

「にいにそんなこと言っていーの!?」
「けっ、何とでも言いやがれ」
全く動く気のない兄に、わあわあと一頻り騒ぎむくれた後。
―――彼女らはぼそりと悪魔の一言を言い放った。

「………花火のときのあの女の子に言いつけてやる」

!!

―――俺は働かない脳を無理矢理起こし、一瞬にして計算する。

・こいつらと彼女は顔見知り →
・夏祭りでだいぶ距離が縮まった →
・仲違いしてしょーもない悪口を吹き込まれる →
・俺の心象が悪くなる ←ここに行き着くこと必須!

「………。縄跳びとスケボーするぞ。用意して来い!」
「「やったー!!」」

―――かくして今日もめでたく俺は双子の奴隷に成り下がり、意中の彼女の心を掴むため涙ぐましい努力に励むのだった。


END.

8/9/2024, 9:12:58 AM