夜に懸ける

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僕の世界を変えるのはいつだって君だ。
新しいきっかけは決まって君が運んでくる。
君がやりたいって言い出して始めたバンド活動も、今では僕の生きがいだ。音楽の知識なんて君から教わったものしかなかったのに。こんなに夢中になるなんて思ってもいなかった。

放課後を告げるチャイムが鳴る。軽音部の部室に入ると、君はすでにいて、何やら熱心にスマホをいじっていた。
僕が来たことに気づくと、待ってましたとばかりに駆け寄ってくる。
「オーディション受けよう!ていうかもう応募した!」
熱心に見ていたのはアーティストデビューを前提とした有名な事務所のオーディションサイトだったようだ。これでもかというほどスマホ画面を押し付けてくる。

オーディション受けてどうするの。なんで知らないうちに応募してるの。他のメンバーはそのこと知ってるの。
一瞬のうちに数々の疑問が頭を過ぎっていく。けれど結局どれも言葉にはならず、代わりに出た言葉は僕が君に振り回されることを受け入れるときのお決まりの台詞だった。
「ほんとに君って人は…。」
「俺は高校生活の部活だけでこのバンドを終わらせるつもりなんてないからな!もっと広い世界で俺達の音楽を続けていきたいんだよ。」
「もちろん他のメンバーはこのこと知ってるんだよね?」
「?さっき応募したんだから他の奴らが知ってるわけないだろ。説得できるかどうかお前にかかってるんだからしっかりしろよな!」
「……」
呆れを通り越してもはや感動を覚える。結局いつも苦労するのは僕だけなのだ。毎度振り回される僕の身にもなってほしい。

「まぁ実際受かるかどうかなんてわからないからな。とりあえず挑戦したいんだよ。何もせずに終わることほどもったいないことはないからな!」
早速ギターを取り出す君。今からオーディション用の新曲を考えるのだろう。一度決めたら揺るがない。そういう君だから、僕はずっと憧れてここまで来てしまったんだろうな。
でもやっぱり、どうせなら。
「やるからには全力だして。絶対合格するよ。」
僕も大概どうかしてる。珍しくやる気に溢れている僕を見て、君は呆気にとられていた。

君といる世界はいつも新鮮で、この先もずっと、いつまでも新しい世界にときめいていたい。
きっとデビューしたら、君の作る世界を、音楽を、世界中の人が聴いて、好きになって、心を動かしていくのだ。
そんな未来を予感して、勝手に胸がいっぱいになる。

僕の世界を変えるのはいつだって君だ。
だけどその世界を誰よりも楽しんで、胸を高鳴らせているのは僕に違いない。

3/19/2023, 12:09:02 PM