ミツ

Open App

「ルールを守りなさい」

小さい頃から言われ続けた。

「ルールって?」

「従わなければならないものです」

「例えば?」

「……例えば、学校で勉強をすることです」

「絶対?」

「はい」

言ってきたのはお母さん。

いつも敬語だからそれが当たり前だと思っていた。

僕にとっては、「当たり前」=「ルール」だった。

だから自然と僕も敬語になっていく。

「お母さん」

「なんですか?」

「ここの部分についてなんですが、質問いいですか?」

「はい」

「ありがとうございます」

疑問は抱かなかった。

しかし、大きくなるとだんだん自分が周りと違う事に気づく。

だからといっていきなり辞めることは出来ない。

癖とはとても恐ろしい。

僕は敬語を外すことを断念した。

ところで、あれだけルールを守れと言ってきた母は僕が聞くまで教えてくれることは無い。

だから大体は学校で習う。

法律に背いてはいけない。

大人の言うことに従う。

その他諸々。

そして暗黙のルールというのもある。

これらは実にややこしい。

こんなもの、破っていた人がいたとしても仕方がないのでは?

と、僕はいつも思う。

暗黙のルールというものも育っていくうちに自然と分かってくる、か教えられる。

暗黙のルールを守らない人はこう映るんじゃないか?

「暗黙のルールを破る」=「常識の無い人」

まぁ、実際そうだとしてもだ。

ルールは実に面倒くさい。

覚えるのすら面倒くさい。

世の中にはまだまだ知らないルールがある。

僕は今置かれている状況のルールは知らない。

「大丈夫ですか?」

教室の床に座り込んでいるクラスメイトに声を掛ける。

反応は無い。

手を差し出しながらもう一度言った。

「大丈夫ですか?」

目の前にいるのは大人しそうな女子生徒。

俯いていて顔はよく見えない。

服はびちゃびちゃに濡れていて下着が透けている。

髪からは水がたれ続けていた。

「そのままだと風を引いてしまいます」

「ほっといて」

微かに聞き取れた小さな声。

今にも消えてしまいそうで心配になった。

「春日(はるひ)さぁ、もうほっときなって」

「………」

「そうそう!その子は自分でやったんだから、ね?花火(はなび)チャン」

一人がそう言うとクラス全体に笑い声が響いた。

きっとこれにも何かのルールがある。

暗黙のルールっていうやつが。

たとえそれがいじめであっても。

僕は無力なのだと。

何も出来ない役立たずなのだと。

思い知ってしまった。

でも、僕にも好奇心というものがある。

どんなルールがあるのかがどうしても気になってしまい我慢できずに聞いてみた。

「この場合、どんなルールがあるんでしょうか」

「は?」


                              ールールー

4/25/2024, 9:09:37 AM