"世界に一つだけ"
コンコンコン
パソコンと向かい合って書類作業していると、診察室の扉の方から小気味良いノック音が鳴って室内に響く。一旦手を止め、床を軽く蹴って椅子を回転させて扉の方を向く。
「はい。どうし……、なんだテメェか」
常に開け放たれている扉の所に、手にA4サイズの紙封筒を持っているブレイブが立っていた。入れよ、と手で入室を促すと、軽く会釈してこちらに歩み寄って来る。
「作業の邪魔をして済まない。頼まれていた資料持って来たぞ」
そう言って、持っていた紙封筒を俺に差し出す。
「おぉ、ありがとよ。」
受け取ると、デスクの上のペン立てからハサミを取り、紙封筒の上から約1mmの所をハサミで切って、残り数cmの所で切るのを止め、切り口を開いて中を覗き込んで確認する。
「…確かに。悪ぃな、急ぎで頼んじまって。急に気になって必要になってよ。…けど助かった」
「礼には及ばん。貴方の、細部にまで目を向けて答えを導き出すところに何度救われたか…。だからこの位、お安い御用だ」
そう言いながら、口角を僅かに上げる。
「そりゃどーも。騎士様のお褒めに預かり光栄です」
少々わざとらしい口調で返すと
「賢者様の命令とあらば何なりと」
と、返された。
「ハッ、賢者様って」
俺はそんなガラじゃねぇよ、と自虐を込めて返す。用事を済ませたブレイブが「では」と踵を返して廊下に出ようとするのを止める。
「あ、ちょっと待て。渡してぇのがある」
「渡したい物、とは?」
立ち止まって体をもう一度こちらに向けたのを確認して、1番上の引き出しを開けて貝殻のついたチャームを取り出し、ブレイブに向けて掲げる。
「これ」
「これは…?付いている貝殻は、前に海に行った時に拾っていた貝殻か?」
「ご名答。あん時拾った貝殻で、チャーム作った。カバンの取っ手に括り付けるタイプのやつ」
「手作りか?店に並んでいても可笑しくないクオリティだが…」
目を見開いてチャームを見る。恥ずいからあんま見ないでくれ…。チャームをまじまじと見られて恥ずかしさに悶えていると、パッと顔を上げて俺の方を見て遠慮がちに聞いてきた。
「渡したい物とは、これか?」
恥ずかしがりながら、おぉ、と頷く。
「ほら、受け取れ。早く」
とブレイブに差し出す。受け取ったのを確認すると、チャームから手を離してまた床を軽く蹴ってデスクに体を向ける。
「ありがとう。大切にする」
「おぅ…」
と、返事をする。恥ずかし紛れに、首から下げたネックレスの、チャームとお揃いの形をした貝殻を指で撫でながら。
9/9/2023, 11:53:09 AM