かたいなか

Open App

「『私にAさんへの』愛があれば、『Aさんに私への』愛があれば、『某会社に本当に○○への』愛があれば……あとは、何だろうな?」
個人的に、「愛があれば何でもできる」より、「恋があれば何でもやってしまう」がしっくり来るんよな。某所物書きはスマホをスワイプしながら呟いた。
恋愛中は我慢と理性のブレーキが緩みに緩んで、だいたい何でも「やらかす」。前頭前野が仕事をせず、ドーパミンが暴れるせいだ――知らんけど。

「愛があれば『痛みの軽減』ができる場合がある、ってのはどこかの番組で見た」
痛覚的に「いたい」物語は、程度によってはアレルギーを起こすので、投稿できない物書きである。
「愛があっても運とカネが無けりゃ、ガチャは勝てねぇんだよなぁ……」
精神的に「いたい」物語は内容による。
なお完全に蛇足ながら、残り数日、物書きは節約が必要である――「何でも」できることだろう。
たとえば1食200円未満メシとか。

――――――

「『あいがあれば』? ふざけるな」
雪国の田舎出身な先輩が溶けた。
「あいがあれば、ひもまたすずし、か?あいがあれば、とーきょーのきおんを、さげられるか?」
東京の、今日の最高気温は27℃予報。朝の時点でもう20℃を超えた。明日は最高29℃予想らしい。
「やってみせろ。できやしない。あいがなんだ」

本店から諸事情でウチの支店を訪れた先輩が溶け、
3月からこの支店で一緒に仕事してる付烏月さん、ツウキさんが興味本位に先輩をツンツンしてて、
支店長なんかお腹抱えて「変な咳払い」してる。
今週から正式にウチの配属になった新卒ちゃんは、開いた口が塞がらない――スマホで119番しようとさえしてたけど、そこは私が止めた。

真夏もほぼ35℃以下、冬は最「高」気温氷点下。そこから上京してきた先輩は、東京に来てもう長い筈なのに、毎年毎年4月の20℃、5月6月の夏日で、暑さに負けて溶けてエアコンが効き始めるまで机に頬つけて死んでる。
「だまされるものか。あいなど、あってもなつは、すずしくできない……」
さっきから愛に恨みをぶつけてるのは、本店某部署の体育会系なタイイク課長が「お客様への愛があれば」とケアレスミス注意の朝会スピーチをしたからだと推測される。まぁ、いつものことだ。
「何でもできる」がどうとかも言ったに違いない。

いつもバリバリ仕事して、いざというとき頼りになって、真面目で感情ちょっと平坦な先輩が、でろるんと、チカラなく頬も指先も重力に任せてる。
それは本店でよく見てた風物詩。「春も終わるなぁ」と、しんみりし始める目印だった。

27℃か(夏かな)
明日29℃か(春だよ)

「あのね先輩。『愛があれば何でもできる』って、そういうハナシじゃないと思う」
「いいや。『なんでも』、できるハズだ。なんでもできるなら、あいがあれば、おんだんかだって」
「行間読むって大事だと思うよ先輩。あと新人ちゃんが持ってきた情報だけど、ウチのフロアのエアコン不具合か何かで調整入るって。動くの数時間後だって」
「おのれタイイク」
「いやタイイク課長関係無いし。……アイス買ってくるけど、先輩いつものやつ?」
「たすかる。ありがたい。たのんだ」

愛よりアイス。アイスは夏日を救う。
アイスがあれば、何でもできる?
なんか、ささやき程度の小さい声で、アイスと私への感謝を述べてる先輩。
東京の明日は、今日より暑い。
もしも先輩が先輩の幼児を終わらせて、本店に帰る道中で、数分〜十数分以内に近所で救急車が鳴ったら、その音は多分、暑さにより路上で溶けちゃった熱中症先輩のお迎えだと思う。

5/17/2024, 2:18:17 AM