友情
飛び込み台からプールへとダイブする幼馴染。パシャっと水飛沫が上がり、水中を静かに進んで行った。
相変わらず、綺麗な飛び込みはいつも惚れ惚れする。12.5m付近で、顔をひょっこり出したところで、声をかけた。
「もういいんじゃねーの、かえろーぜ」
俺の声は聞こえてなかった。そのまま、残りの距離を泳いでクイックターンして戻って来る。
綺麗なクロールのフォーム。まるで、水の上を滑るように泳いでいた。
俺のところまで帰ってくると、顔を上げ、ゴーグルを額までぐいっと上げる。
「さっきなんか言った?」
「言った、ちゃんと言ったからな」
「なんて言ったの?」
キョトンとした顔で首を傾げる幼馴染。
夢中になるとすぐ周りが見えなくなる。良く言えば、集中力が高い。
俺は幼馴染のそう言うところ、嫌いじゃない。でも、少し気付いて欲しい。
「もう帰ろうぜって言った、先輩たち帰ったし」
「んー……もう少しだけ泳ぎたい」
「だーめー、帰る。ほら、早く上がってこい」
飛び込み台の上に乗り、幼馴染に手を差し伸べた。
すると、幼馴染はニヤリと笑って、俺の手を取るとプールへ引き摺り込む。
目の前が水の世界に変わった。してやられた、幼馴染のすることはわかっていたのに。
ぷはっと水から出て、空気を吸っているとゲラゲラ笑う幼馴染がいた。
「やりやがったな、このやろう……」
「油断する方が悪――」
俺は幼馴染が喋る前に手で水鉄砲を撃つ。丁度、顔に命中した。
「げほっ、顔面なしだろー」
「俺をプールに引きずりこんだから、おあいこだろ」
文句をぶーぶー言っているが聞こえないフリ。幼馴染の腕を掴んで、階段まで引っ張る。
そして、俺らはプールからプールサイドへ上がり、ベンチの上に置いていたタオルを手に取って、体を拭いた。
「ケチっ」
「ケチで結構」
体を拭き終えてそのまま、更衣室へ向かおうとすると、背後からタオルで叩かれる。
「ってぇーな、なんだよ」
「おーよーぎーたーいっ」
「まだ言っていたのかよ、しつこいっ‼︎」
タオルで叩き返そうとすると、ひらりと避けられてしまった。
俺にあっかんべーをして、煽る幼馴染。ムカつく。
「……もうアイス買ってやらねぇー」
「あ、なんか急に着替えたくなってきた」
バタバタと小走りに更衣室へ入って行った幼馴染。
俺は深いため息を吐いた後、笑いが込み上がってきた。
相変わらずだと。扱いが単純すぎる。そこが、また良い。
「なぁー、何1人でニヤニヤしているんだよ、気持ち悪いなぁー」
「気持ち悪くない、さっさと着替えるぞ。んで、コンビニでアイス買うぞ」
「へーい、りょーかいっ」
幼馴染は敬礼をして、すぐに着替え始めた。俺も同じく着替える、
幼い時からそうだ、ずっと一緒。何をするのも一緒。
真面目に水泳の研究して話し合い、たまにバカなことして、笑い合う。帰り道、コンビニに寄って、アイスを買って食べながら帰る。
この先もそうだったら良い。いつまでも、いつまでも。
「今日はアイスと唐揚げ棒とプリンとシュークリームとフライドポテト」
「いや、待て待て、どんだけ食うんだよ」
顔を見合わせて、笑い合った。夕暮れにこだまする笑い声。
7/24/2023, 1:44:27 PM