神奈崎

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 ゴミ収集は五の付く日、深夜から早朝の掃除は禁止、コインランドリーは地下一階が便利だが安さを求めるなら東に十分歩いたところが一番まとも。
 食器はここ使っていい箪笥はここ、それから寝るのは当分ここだと美人らしい細くも節のある指で指し示したのは合皮が死にかけているソファ。
「夜六時以降は外に出るんじゃねぇぞ」
「早っ」
「ミンチで夜明け見たかねぇだろ?」
「あーい」
 美麗なご尊顔を御自ら崩す青年ジィンに、ヴェーダ少年は律儀に挙手した。雨風凌げる上に床で寝なくていいなら合格点、冷蔵庫の中見てもいいー? と言って返事も聞かず開けながら、ヴェーダはふとした疑問を告げる。
「飯どうすんの?」
「適当」
「だめじゃん。美人は中身、つまり食いもんからだよ、アニキ」
 もう少し手入れをしたら目を見張るであろう美貌に頓着してない青年は忌々しく顔を顰めたが、ヴェーダも負けじと顔を顰めた。ミネラルウォーターと調味料以外何も入ってないんだけど。
「とにかくまずは買い出しだなー」
 声に出して主張したタイミングで、玄関から物音がした。一人暮らしを想定したアパートゆえ、ドアのノック音はよく響く。
「……言い忘れてたことがある」
 今までの雑さが嘘のような、緊張感さえ孕むジィンの声が、小さく落ちる。
「マダムミイラには気をつけろ」
「は?」
 ドンドンドン、ドンドンドン。単独ステージ状態のノック音は暫く続き、不意にピタリと止まった。
「それから」
 身構える青年の顔は今にも冷や汗でいっぱいになりそうなほど、張り詰めている。
「玄関が勝手に開いたら……」
 がちゃ。ぎぃ。ジィンの言った通りの現象が目の前で起こる。想定外の現象にすっかり怯えるヴェーダ少年が見るドアの向こう、静かに顔を出したのは一人の老婆。
「先月の家賃、未納はあんただけだよジィン」
「げ」
 だいたい十歳の割には様々な地に引っ張り回されている故、ヴェーダ少年はすぐさま勘付いた。
「家賃払ってないのはダメだと思う」
「ウルセェ」
 付いて行く相手を間違えたと初めて思った。


【ルール/泥棒泣かせと拾われた少年】

4/25/2023, 9:57:59 AM