箱庭メリィ

Open App

『そうして彼らは新たな街へと旅立つのだった。
    〜 Fin 〜』

 カタカタ、カタン、と最後の文字まで打ち終えると、作者は今までの旅を一身に背負ったかのように盛大な伸びをした。
 いや、書いたのは彼なのだから、旅をしてきたのは彼だと言っても過言ではないのだが。

「うーん。ようやく終わったー。さ、休憩してから担当さんに送るかー」

 独り言を呟いて彼が部屋から出ると、誰もいないはずの部屋に話し声がしだした。

『なぁ、おれらの旅、終わったって書いてあるぜ?』
『始まりがあれば終わるもの、当然でしょう』
『でもでも、まだ魔王倒してないよ?』

 ぼそぼそとした声がだんだんとはっきりしだしたかと思えば、先程終了を書かれたあとの部分からつらつらと文字が増えている。
 それは彼の書いたファンタジー小説の主人公たちのセリフだった。

『こんなところで終わらせられてたまるかよ』
『しかし、そうは言ってもですね。作者(神)が私達の冒険はここで終わりだと仰ったのです』
『まだまだ途中なのに? ヒドくない?』

 主人公の勇者、眼鏡をかけた賢者、魔法使いの少女、セリフはまだまだ連なっていく。

『あ、終わらせなきゃいいんじゃないか?』
『は? 勝手にそんなこと出来るわけないでしょう』
『わ、ナイスアイディーア! あたし達で続けちゃえばいいんだ!』
『よし、そうと決まれば次の街へ出発だ!』
『ちょ、ちょっと、なにを勝手な――』
『おー!』

 勇者たちは、閉ざされた道を切り開いてずんずん進んでいった。道なき道を進む二人を見て、賢者は戸惑っている。

『ぼーっとしてると置いていくぞー』

 が、勇者の声に慌ててあとを追いかけた。


 しばらくすると、コーヒーとスマホを持った作者が部屋に戻ってきた。
「あ、担当さんですか? あの、さっき書き終わったって言ったやつなんですけど、続き、思いついちゃったんで書いていいですか?」


/5/30『まだ続く物語』

5/30/2025, 2:52:37 PM