《沈む夕陽》#25 2026/04/07
「朔、久しぶりだね」
高校からの帰り道、まだ、通い慣れない街の片隅で、聴き慣れた声が、私を呼んだ。
「うそ……陽菜?」
声が聞こえた方に振り返ると、そこには、幼なじみの陽菜が立っていた。
長く美しい栗毛がキラキラと、あの頃と同じように輝いていていて、でも。
「ちょっとだけ、会いに来たんだ」
私達が中三のだった時の秋が終わる頃、陽菜は病気で…。
「朔、時間ある?これからデートしよ!」
目の前の事が飲み込めていない私を急かすように、陽菜は私の手を取り、返事を聞かずに歩き出した。
その手は、柔らかく、温かかった。
「ここのクレープ、美味しいんだって」
二人で来たことのない街を、まるで何でも知っているかのように私を連れ回し、陽菜は楽しそうに話し続けた。
死んだのは本当、でも、予定よりちょっとだけ早かったんだって、うん、そう、神様が。でね、納得いかねーってゴネた結果がコレ。本当に、楽しそうに。
「アタシさ、前からずっと朔と二人きりで遊びたかったんだよ」
「私と?」
「うん、だって…」
イチゴチョコスペシャルの最後の一口を口に放り込み、公園のベンチから立ち上がった陽菜は、夕陽を背に、最高の笑顔で言い放った。
「朔のこと……大好き」
え……陽菜が……うそ……。
陽菜のことを思い出すのが辛くて、それで逃げるように選んだ学校のあるこの街で、初恋の相手から、告白されている。
「わ、私だって…大好きだよ!」
陽菜がまた、にこりと微笑んだ。
「嬉しい…ありがとう、朔。良かった、片想いじゃなくて。これで、心残り無しだ」
「え?」
待って。なに、その、もう、おしまいみたいな。
「ごめんね。門限ってやつ?夜になる迄に、帰って来いって」
嫌だ。私は陽菜を抱きしめた。無我夢中で、逃さないように。
でも、頭の片隅では、解っていた。
死んだのは、本当。陽菜は、そう言ってた。
陽菜も、私のことを優しく抱きしめてくれる。
「本当に、ありがとう。朔、あったかいね…アタシ、忘れないよ」
「わた……わたし、も……」
日が伸びていく、最近そう感じてはいたけど、今、この瞬間は、足りない、全然足りないよ!って、心の中で叫び続ける。
でも、ただの人間であるところの私は、沈みかける夕陽を押しとどめることなんて、出来なかった。
「その気持ちだけで、じゅうぶん!」
私の頭をくしゃくしゃって撫でて、私の耳元に形の良い唇を寄せた。
「ついてくんなよ」
「……っ!」
私の気持ち、全部見抜かれてる……バカ。
「じゃ」
陽菜は、またね、とは言ってくれなかった。
「ひな…あ……」
消えた。ぱっと消えた。徐々に、とかではなくて。私に最後の一言を言わせる、その時間の猶予もなく。
「あー、もう!神さまのケチー!」
夕陽が沈んだその先に、私は思いっ切り叫んだ。
なんだよ、もう。せめて、キスの一つくらいさせるのがお約束だろうがー!
でも、ごめんね、神さま。ありがと。
もう一度、陽菜に会わせてくれて。
「あ、もう、帰らないと」
陽菜と私が生まれ育った街へ。今日からはまた向き合える、そんな気がした。
いつの間にか、空には私の名前と同じ、月が浮かんでいた。
4/7/2026, 3:37:23 PM