【生きる意味】
※すべてのペットに幸あれ
――では○○さん、最後に、このために生きている、と言えるようなものはありますか? あれば教えてください。
そりゃもちろん、うちの子のためでしょ。
――えっ、お子さんがいらっしゃるんですか?
やだな、ペットだってば。あたし、アイドルよ? 百年先まで独身でいる覚悟なんだから。ペットさえいてくれれば、ほかになにもいらないし。
あの子、めちゃくちゃ可愛いの。こーんなに小さいのよ。頭のてっぺんのふさふさの白い毛とか、あたしを見上げてくるときの黒いつぶらな瞳とか、もうなにからなにまでカンペキに可愛くて。
お皿にごはんを盛ってあげると、嬉しそうに飛びつくの。そんなところも可愛くて、毎日可愛さが更新されてるの、すごくない? あたしが生きてるのはこの子のためなんだなー、って思わずにはいられないんだから。
――ずいぶんお気に入りなんですね。なんていう種類のペットですか?
ニンゲンよ。ほら、一時期ブームになった、珍しい形の生き物。
チキューという星から来たのよね。こことチキューじゃ環境がぜんぜん違うらしいから、なるべくあの子が過ごしやすいように箱の環境を整えてあげたいなって思ってるの。そのためにはじゃんじゃん仕事入れて、もっと稼がなきゃね。
――ニンゲンは温度管理や酸素管理がたいへん、というのはよく聞きますね。
そう! 外の気温じゃ普通に死ぬから、あの子の飼育箱、常時冷却モードよ。酸素ポンプも必須だし。留守中になにかの事故でポンプや冷却システムが止まっちゃうんじゃないかって、いつもハラハラしてる。もう毎日早く帰りたい。
ニンゲンブーム、環境構築に手間がかかるからってすぐ終わっちゃったけど、あたしから言わせてもらえば、愛が足りてないのよね。手間がかかるほうが、一緒に関わる時間も増えて幸せじゃん。生半可な覚悟でニンゲン飼うなっつーの!
――ニンゲンへの熱い想いが伝わってきますね。今日はありがとうございました。○○さんのこれからのご活躍も、楽しみにしています。
インタビューを終えて控え室に戻ったら、アイドル仲間の§△§がニヤつきながら待っていた。
「あんた、ペット大好きキャラでいくことにしたんだ?」
あたしも触覚を曲げてニヤリと笑う。
「ペットの溺愛って好感度高いでしょ。しかもニンゲンは珍しいし」
「話題になるためのつかみってことね。あんたのそういう打算的なとこ、嫌いじゃないよ」
同僚の褒め言葉を、触覚を振って受け流す。
仕入れたばかりのニンゲンは、最低限の冷却モードに設定した真っ暗な箱の中で、今日も二つの目を閉じたまま転がっているだろう。ときどきのろのろと頭を上げて、放り込まれたエサを貪って、そしてまた隅っこで転がっているだけ。
細長い体のあちこちから出っ張りが突き出している奇妙な形で、目が二つもあって、ヘンなところに毛が生えていて、あんなの、ちっとも可愛くない。でも、あたしのために、当分は生きててもらうんだから。
4/28/2023, 1:09:05 AM