ブラックネック

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「アメリカにね、原爆を落としたいんだよ」
早乙女領一郎は笑みを浮かべながら、
彼らに言い放った。
「考えてもみたまえ。あの国は、一般人の頭の上から、あのような兵器を使っておいて、それを『終戦のためには仕方なかった』と主張しているのだよ。それならば、広島だけでいいものを、長崎にも落としている。兵器の試し撃ちと、日本人を使って、人体実験をしたかっただけなのさ。」
服部が反論する。
「だからといって、やり返しては」
「同じ穴の狢になるというのかい?随分センチメンタルで甘ったれな考え方だ」
早乙女は、両手を自身の目の前に何かを少し掲げるようにあげながら、その場をコツコツと、音を立てながら歩いている。
「いいかね?」
いきなりぎろっと睨まれ、服部は肩をすくめて口ごもる。
「今もあの国は、『平和のために』と称して、他国を攻撃している。その実、結局武器で儲けたいだけだ。それならば、素直にそう主張すればいいのだ。『平和のために』などと、歯の浮くような偽善めいたスローガンを掲げながら人を殺しているのが、いかに見苦しく、そして愚かか」
メトロノームのように、その場を回りながら語る早乙女の言葉は、その部屋に響いていた。
「私はね、自分を善だと思ってやしないのだよ。
いや、むしろこの世界に善も悪も存在しないのかもしれん。あるのは個々の偏った主張だけだ。
私は、とにかくあの忌々しい国と、その国民どもに、『平和のために仕方なく』核兵器を落としてやりたいのだよ。あの国がそれで許されるのなら、私が同じことをしても、許されてしかるべきなはずだ」
「しかし、核兵器など使えば、反撃されて日本も。それどころか、世界大戦になりかねないんだぞ?」
服部を舐めるように見つめながら、早乙女は踵を返して彼につかつかと近づいてくる。
早乙女の吐息が当たってきそうなぐらい近寄られて、服部は思わず後ずさりした。
「『独善』という言葉を知っているかね?」
早乙女から目が離せない。
「『独善』とは、孤独の独に、善悪の善と書く。
自分だけが正しいと思いこんで、他人の意見を顧みない独りよがりの様のことを指す。
あの国の独善的振る舞いと、それを黙って見ているしかないこの世界に、私は心底うんざりさせられているのだよ。こんな世界なら、終わってしまった方がいい。」
きっぱりと言い切った早乙女に、
服部は何を言えばいいのか言葉が見つからない。
自分の未来に悲観して、ずっと現実から逃げてきた男が、
この世界を否定する早乙女にどう反論すればいいというのか。
早乙女は、服部が下を向くと、ゆっくりと彼から離れていく。
「もう、見てみぬふりは耐えられない」

4/26/2026, 4:57:35 PM