ミヤ

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"誰もいない教室"

鍵をかける音。
くすくす笑う声が、徐々に遠ざかっていく。

二、三度扉を引いて、開かないことを確認して。
仕方無いから机に腰掛け、鞄から本を取り出す。
文庫本半分くらいまで読み進めた頃。
廊下をバタバタと走る騒がしい音に顔を上げた。

ガチャガチャと鍵が開けられた後、勢いよくスパンと扉が横にスライドする。

やぁ、と手を挙げると。
"……お前はっ、少しは焦れよ!! "

苛立ちと焦燥が入り混じった顔をした知り合いの、
全力の叫びに思わず耳を塞いだ。



"いや、窓あるし。それに電気をつけていたら最終的には警備員の見回りで気付かれるだろうから"

のんびり帰る支度をしつつ、仁王立ちでこちらを睥睨する知り合いに向かってそう言うが、その眦は吊り上がったまま緩む気配はない。

"閉じ込めた奴らは、"

"あ、別にいいよ。面倒だから"

"……お前、さては結構機嫌良いな"

"合法的に授業をサボる言い訳をくれたからね。
ゆっくり本も読めたし。
誰もいない教室というのも、静かで、なかなか良いものだね"

そう言うと、深く深く溜め息を吐かれた。



帰宅の路について、改めて鍵を開けてくれたことに対して礼を述べると、彼はなにやら複雑そうな表情を浮かべた。

"本当に何にもしないつもりか。ああいう奴らは反撃しないと際限なくつけ上がるぞ。……昔の俺みたいに"

"ん?ああ、連中には後日個別に話をするよ。
折角自分で自分の弱味を作ってくれたんだ。せいぜい有効活用してやらないと、だろう?"

少しの沈黙の後、

"……あいつらに同情するわ"

そう言って、彼は完全に脱力した。

9/7/2025, 4:52:56 AM