うどん巫女

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目が覚めると(2023.7.10)

目が覚めると、何故だか猫になっていた。
「…は?…え?え?」
状況が掴めずに意味をなさない言葉をあげる声は、いつもの自分のものだ。だが、住み慣れた小汚い部屋の鏡に映る姿は、どう見ても三毛猫だった。
「いやいやいや…」
どう考えたって現実的にあり得ない。きっとこれは夢だろうとは思うものの、昨日寝る前に飲んで置きっぱなしになっている安酒の匂いすら感じられるとは、あまりにリアルすぎる夢ではないか。
オスの三毛猫ってすごい珍しいんだよな…なんて、どうでもいいことを考えて現実逃避するが、どれだけ待っても鏡に映る猫が人間に変わる様子はない、
とにかく、これからとうするかを考えなければ。これが夢なら、もしくはすぐに人間に戻れるならまだいいが、このままずっと猫のままだったら…一体どう生きていけばいいというのか。
ぐるぐると脳内に思案を巡らせながらふと窓の外を見ると、自分とは違う、おそらく近所の野良猫がじっとこちらを見ていた。毛並みは少し荒れているが、澄んだ目をした黒猫だ。
「にゃぁん」
黒猫は、なんとなく、こちらに呆れたように一声鳴くと、その場で丸くなってしまった。同じ猫だと思われているのだろうか、野良猫のわりに、こちらを威嚇したり警戒したりする様子もなく、日向ぼっこを楽しんでいるように見える。
のほほんとした黒猫の様子を見ていると、なんだか色々と悩んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。
今日と明日は仕事も休みだし、特に何の予定もなかった。せっかく猫になったのだから、のんべんだらりとしていたって、誰も文句は言うまい。
そう結論づけて、自分も黒猫を真似て丸くなってみる。なるほど、この姿勢はなかなか落ち着いて、心地のいいものだ。
暖かな陽気のもと、だんだん薄れていく意識の端で、あの黒猫の満足そうな一鳴きが聞こえた気がした。

目が覚めると、人間になっていた。いや、あれはきっと夢だったのだろうから、人間になった、というのも、人間に戻った、というのも、本当は正しくないのだろう。けれども、あの陽だまりの心地よさが、どうにも頭から離れなかった。
たまには、猫になるのもいいかもしれないな。
そんなことを考えながら、人間らしく布団の中で丸くなった。

7/10/2023, 3:17:16 PM