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「たとえ冬が来ようとも、私は決して屈しない!
 世界が氷に閉ざされようと、私は決して絶望しないだろう。
 なぜなら私には心強い味方がいるからだ!
 終わらない冬は無い!」
「そーね」

 私がカッコよく叫んでいると、コタツに入っている友人の沙都子がゆるーく同意する。
 ツッコミ前提の発言だったので、ツッコミが無いとどうにもおさまりが悪い。
 いつも切れ味鋭いツッコミをくれる沙都子も、今日は期待できそうになかった
 なぜなら毒舌ツッコミガール沙都子は、今はただのコタツムリと化していたからだ。
 ……コタツ恐るべし。

「百合子、アンタも遊んでないでコタツに入りなさい」
「うす」
 というわけで、今日はコタツに入ってお送りします。

 私こと百合子は、いつものように友人の沙都子の部屋に遊びに来ていた。
 普段はきらびやかな洋風の部屋だが、冬が始まってコタツが設置され、なんちゃって和風になっていた。
 そして設置されているコタツも、いいものを使っているのかとても暖かい。
 正直、コタツに良い悪いがあるのかは知らないけれど。

「ヤバいね、コタツ。
 まさにブラックホール!
 一生ここで暮らそうかな」
「いつもより数割増しでテンション高いわね、百合子……
 でも仕方ないわ。
 だってコタツだもの」
 私のおふざけにも、優しく対応してくれる沙都子。
 普段の沙都子からは想像できない聖人振り!
 調子狂うなあ……

「そういえば、今日どうするの?」
「どうするとは?」
「泊まってく?」
「まさか沙都子にお泊りを誘われるとは……」
 私が泊まりたいと言ったら全力で阻止してくるというのに、なにこの変わりよう……
 ちょっと怖い。
 一周回って、このコタツは呪われているのかもしれない

「き、今日は遠慮するよ。
 着替え持ってきてないし」
「そうなの、残念ね……」
 沙都子は食い下がることなく納得する
 本当は、いつでも泊まれるようにカバンの中にはお泊りセットが入っている。
 けれど調子がおかしい沙都子と一緒にいると、私まで調子を崩しそうになるので遠慮することにした。
 次の機会という事で。

「まあいいや、沙都子。
 ゲームしていい?」
「どうぞ、お好きになさい」
 私は沙都子の許可を得て、ゲームの準備をする。
 『友人の家に遊びに来てまで、することじゃないだろ』と言われるが、仕方が無いのだ。
 たって、私の家にはPS5がないんだもの。
 沙都子も、熱心にゲームをする人間ではないので、私が主な使用者である。
 ではさっそく――あれ?

「PS5の電源が入らない……
 もしかして壊した?」
「心外ね。
 あんたじゃあるまいし、壊さないわよ」
「じゃあなんで?」
「PS5の電源コードを抜いてるからよ」
「えええーー!」
 衝撃の事実に、私は絶叫する。
 コタツに入りながら、ぬくぬくゲームをしようと思っていたのに……
 計算外だ!

「何で抜いたの!?」
「コタツを設置するときに、コンセントが足りなくてね。
 仕方ないからPS5の線を抜いたわけ」
「なんてことを!
 ゲームできないじゃんか!」
「まったく世話の焼ける……
 そこにスマホの充電用の線に繋いでいる電源タップがあるでしょ。
 少しの間ならアレをつかっていいわ」

 沙都子の目線の先に、電源タップが置いてある。
 なるほど、あれを使えばいいのか。
 今日の沙都子はひたすら優しい。

「ありがとう、沙都子。
 じゃあ、差し変えてきて」
「嫌よ」
「なんで!?」
「何でと言われても……
 私、コタツ出たくないの」
「私も出たくないよ!」
「それでもいいわよ。
 私ゲームしないし」
「くっ」

 痛いところを突かれ、私は押し黙る。
 優しいとはいえ、今日の沙都子はコタツムリ。
 コタツからは出るはずがなかった。

 コタツに出ずに電源タップを使う方法を考えて考えて……
 いろいろ考えた末、自分で取りに行くことにした。
 結論はいつだってつまらないものだ……

「ふうう、寒い寒い」
 コタツをでて、腕をさすりながら電源タップの元へと向かう
 エアコンが利いているので寒くはないけど、気分というやつだ
 私は手早く電源コードを差し替える。
 悩んだ分、無駄に時間を浪費してしまった。
 さっさとゲームをしよう。

「さあて、ゲームをする、か、な……」
 自分がコタツの元位置に戻ろうとしたところ、先客がいた。
 沙都子の飼い猫、ラリーだった。

「ラリー!
 そこは私の場所だよ!」
 私はラリーに抗議するが、彼はどこ吹く風。
 『ここは私の場所ですが?』と言った顔で私を見る。

 私は知っている。
 あの顔のラリーは、てこでも動かない
 持って動かそうにも、急に重くなる憎いやつ
 飼い主に似て、ワガママなやつだ。
 コタツの中で丸くなっていればいいものを!

 ここで対応しても時間を取られるだけ。
 仕方が無いので、別の所からコタツに入ることにした。
 ベストポジションを取られたのは痛いが仕方がない。
 私は別の側面に移動する

 けれどここにも猫がいた。
 この猫も『ここは私の場所ですが?』という顔をしている。
 なんだか嫌な予感がした私は、残りの場所を覗いてみる。
 しかし、そこにも例の顔をした猫がいた。

「どんだけ猫がいるねん!」
 思わず叫ぶ。
 でもそんな事は知らんと、猫たちはこたつの側で毛づくろい
 沙都子も沙都子で、相変わらずコタツムリ。
 この状況が示すのはたった一つの事実。
 
「コタツから追い出された」
 なんてこった。
 今日の沙都子は優しいというのに、沙都子の飼い猫は優しくないらしい。
 無理矢理引きはがすか?

 ダメだ。
 経験上、こうなった猫は本当に動かない。
 それに引きはがせたとしても、新しい猫が来るだけだろう……

「かくなる上は……」
 私はコタツに入らないまま、ゲームをすることにした。
 これ以上、時間を浪費できないという判断である
 沙都子はコタツが一番らしいが、私はゲームが一番なのだ。
 コタツなんて、家に帰ればいくらでも入れるのだ。

 コタツの中から出ようとしない沙都子。
 コタツの側で丸くなる猫たち。
 そしてコタツの外でゲームする私……

 私たちの奇妙な冬は、こうして始まったのだった。

11/30/2024, 4:21:13 PM