かたいなか

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「まず、ニンニクは踊るだろ。風も狐も踊るな。
踊る『ように』じゃなく、踊るよ『ウニ』にすれば、海洋生物のネタも書ける……のか?」
これ、去年と同じなら、来月のだいたい今頃にも一度「踊る」系のお題が来るんだよな。どうしよ。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿ったり、「踊る」をネットで検索したり。
創作ダンスなる履修科目の存在しない世代なので、ことさら踊りには縁も接点も無い。

ところで創作「ダンス」である。
日本「舞踊」は履修対象に該当しないのだろうか。

「ネットによると、他人に操られて行動することを『踊る』と言うし、利息を二重に取ることをオドリブ、『踊り歩』と言うし、書いた字も踊る。
なお『踊』の他に『躍』の字が、あるらしい……」
踊る、おどる、オドル。物書きの視界にはゲシュタルト崩壊した𧾷と甬がいっぱい。
■っているように見えなくもない。あるいは意味なく佇んでいるとも。 以下略。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、朝。
付烏月と書いてツウキと読む名前の男が暮らしており、その日は雪国出身者であるところの友人から提供されたお裾分けの夏野菜で、フレッシュサラダとベーコンエッグなど調理していた。
小さなフライパンにマヨネーズを薄く塗り、強火で熱して、パチパチパチ。
熱でクリーム色が踊るように泡を吹いたら、半額で手に入れた赤色卵を割り入れ、じゅーじゅー。
その後は気分的に弱火からの蒸し焼き。味付けは下地の焦がしマヨとカリカリベーコンに任せた。

ところでリビングに上記で紹介済みの「雪国出身者であるところの友人」が居る。名前を藤森という。

「ナンデ?」
「昨日、私の実家から届いた野菜を提供しただろう。今日も届いたんだ。同規模。違う種類」

「藤森ひとりじゃ、食べ切れなくない?」
「それで今日も、『救援要請』を」
「おけ把握」

くきゃきゃきゃっ、くぅくくっ、くわうぅ!
藤森の腕に抱かれた子狐が、それは藤森のアパートの近所にある稲荷神社在住、もしくはその神社の近所の茶葉屋で看板子狐をしている個体なのだが、
テーブルに置かれた目玉焼きに食欲を突っつかれ、鼻を頭を懸命に伸ばし両足をばたばたばた。
食いたいのだ。
尻尾など「踊るように」どころではない。完全にブレイクダンスか扇風機のそれである。

「茶っ葉屋の店主さんには、お裾分け、もう?」
「もう行ってきた。店主から『ついでに子狐の散歩をしてきてほしい』と言われて、この子狐を。
それからあなたの部屋に来て、あとは私の後輩と、親友のところへ。」
「『食べきれないから送ってくる量減らして』って、メッセ送ればいーじゃん」

「どうなったと思う」
「送ったことあったんだ」
「聞き入れられなかったのか忘れられたのか分からないが結局今年の量は少し増えた」
「ふえた」
「そう。増えた」

食料支援は助かるし、ご実家さんも昨今の物価上昇で心配してるんだろうけど、
まぁまぁ、うん。お前の気持ちも分かるよ。
藤森から「実家からのお裾分け」を受け取り、藤森の腕の中の子狐にゆで卵ひとつ渡して、
付烏月は藤森に、穏やかな苦笑をみせる。

ぶっちゃけ菓子作りが趣味の付烏月にとって、季節の野菜の共有は完全に救世主である。
晩夏の野菜は晩夏の甘味になる。
藤森が付烏月に野菜を提供してくるとき、
付烏月もまた、藤森に菓子を提供するのだ。

「そういえば、昨日貰ったカボチャとトウモロコシでタルト2種類作ったけど、食ってく?」
「……それは、『タルトを作ったけれど一人では食い切れないから、私のお裾分け行脚のついでに高葉井や宇曽野に配ってくれ』というハナシか?」
「ぴんぽん。正解の景品にキューブケーキもどぞ」
「はぁ。そりゃどうも」

じゃ、お裾分け頑張ってね〜。
ぷらぷらぷら。付烏月の右手が踊るように、別れの挨拶として揺れる、揺れる。
荷物の増えた藤森はクーラーボックスに追加分を収容して、ため息ひとつ。
藤森の腕の中の子狐は付烏月から貰ったゆで卵を噛んで、舐めて、かじって、 スポン!
噛みどころが悪かったらしく、白身の中から完熟気味の黄身を勢いよく発射してしまったとさ。

9/8/2024, 3:27:56 AM