ハッとする人

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 一週間。時間換算すると24×7=168時間にも及ぶ気がおかしくなるような長い大雨だった。
 いつまでも降り止まない雨を僕はひどく憔悴しきった顔で眺めている。
 
 これじゃあ彼女に会いに行けない。

 ずっとそのことで悶々とした日々を過ごしていた。
 雨が降ったくらいで彼女に会いに行けなくなるなんて、その彼女は人魚かなんかか、とか言われてしまいそうだが、実際そうだった。
 
 僕の彼女は人魚だ。
 
 それも相当かわいい方の。自慢でしかないが僕の彼女は世界最高の美少女だ。誰にだってガチで胸を張って言えるくらい、かわいいんだ。

 そんな彼女は人魚で、人間とはかけ離れた生命体。だから体の機能なんて全然違う。
 例えば、人魚は雨に弱かったりする。

 いつもは防波堤に二人で座ってだべったりしてるけど、雨が降ったらそれはできない。
 僕が海を潜り続けるわけにもいかないし、雨の日は会わないようにしている。
 それでも最近は毎日のように会っていたから、急に7日連続で会えなくなるとかなり寂しい。
 このまま雨が降り続けて、彼女と再会することなく時が過ぎていくと考えるだけで頭痛がする。

 僕はベランダに出て、町を濡らす雨をぼーっと眺めてみる。
 徒歩数分で着く海がやけに遠く感じた。

 ピンポーン

 呼び鈴の音で意識が海から引き剥がされた。
 こんな大雨が降る中、誰だろうか?
 今日は宅急便をよこしたり、友達と遊ぶ約束をした覚えはない。
 
 疑問を抱えたまま玄関扉を開けた。

「きちゃった!」

 そこには僕の彼女がいた。そう、人魚がいた。
 上半身は人間、下半身は魚。
 さらさらの銀色がかった髪は人間の膝くらいの位置まで伸びていて、肌は雪のように白い。
 細い眉、薄い唇。すべてのパーツが綺麗に整った顔立ち。それでいて幼さの残る童顔。
 彼女は、特徴的な大きな目を瞬かせて呟く。

「無反応?」
「あ、あーひさし、ぶり」
「うん! ひさしぶり!」

 元気のいい溌剌とした声。その声に7日ぶりの快晴がやってきたような気分にさせられる。
 心の、芯の底から晴れやかになった。

 ただ、しかし。
 気になることがひとつ。

「あ、足どうしたの?」

 彼女の下の方に目をやってきく。
 すると、彼女は「ふふ」と笑って。

「わたし、人間になれたんだ!」

 満面の笑みで、そう言ってきた。

 いつまでも降り止まない、雨なんて。
 もうどうでもよかった。



〜いつまでも降り止まない、雨〜


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 ここまでお読み頂きありがとうございます。
 以下、お暇な方のみお読みください。

 ひさしぶり? はじめて?
 できるだけ普通の作品を作ってみました。
 いつもは頭のおかしい作品ばかり作っているので、読者の皆様には本当に感謝しています。

 どうでしょうか? 
 と、言ってもコメント欄はないので、あなたの心のうちに感じたことを留めて頂けるだけで大丈夫です。

 まあ、特に起伏のないストーリーではあったと思うので、今度は起承転結を意識できればなんて思います。実行するかはわかりませんが。
 
 もう次の投稿に切り替わりそうになってきたので今回はこの辺で。

 では、また。
 
 

5/26/2023, 9:58:46 AM