シオン

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(現代パロ・高校生設定)
 雨が降っていた。それはもう、酷いほどに。
 そして僕は傘を持っていなかった。
 そんなわけで、昇降口まで降りてなんなら靴まで履いてしまった僕は、教室で時間を潰すか、ここで雨の降るさまを待つかを考えていた。
「⋯⋯⋯⋯何してんの」
 声がかかったのは、諦めて教室に戻ろうという気持ちが固まりかけた時だった。
 赤い傘を持って隣列の下駄箱から現れたのは、幼なじみで前世からの知り合いである彼女だった。
「⋯⋯⋯⋯傘を、忘れた」
「昨日から天気予報で言われてたけど」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯知ってるよ」
「その上で忘れたと?」
「⋯⋯⋯⋯まぁ」
 呆れたように彼女はため息をついて、昇降口の扉をくぐる。大きな音を立てて落ちる雨にむかって傘を開いた彼女は言った。
「やまないよ、今日中に」
「⋯⋯⋯⋯それは、困ったな⋯⋯」
「入れてあげるから、何か弾いてよ。『演奏者くん』」
 彼女は言った。
「⋯⋯仕方ないな」
 彼女の隣へと立った僕はそっと彼女の手から傘を奪う。僕の方が身長が高いから、持ってあげた方がいいだろう、なんて気遣いといえるかも分からないことをする。
 彼女は少し驚いた顔をしたあと、僕の腕を掴んで自身が雨に濡れないようにしていた。
 なんだか僕に全てを任せてしまっているようで、ひどく愛おしく見えた。

6/19/2024, 3:40:47 PM