かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、絶賛仕事中。

世界と世界を繋ぐ航路の運営をしたり、滅んでしまった世界からこぼれ落ちた難民を受け入れたり、
あるいは、先進世界が発展途上世界に侵略、入植、略奪なんかをせぬよう、取り締まったり、
いろんなことを、しておりました。

ところでその世界線管理局、
最近地球と、特に日本との接続が突然パッタリ!
ひょんなことから、断絶されてしまいまして。
しかも管理局側で、その理由が分からんのです。

いったい何がどうなったのでしょう?

「うぅー!むりぃ!分かんなぁい!!」
対処にあたっていた管理局のひとりは、ビジネスネームをドワーフホトといいまして、
ちょっと比喩的なハナシになりますが、
10の可能性を想定して、100の解決策を試行して、1000のデータを計測して
結局、何の成果も得られなかったのでした。

「不具合発生してるの、地球の日本だけだしぃ、
向こうで何があったのか、聞きたくても音声ひとつデータ1片、届かないっぽいしぃ、
もーー!発泡酒サガリ!!八方塞がりだよぉー!」

もう知らない!あたし、もう何もできない!
想定できるシチュエーションは全部試したドワーフホト。2〜3日くらいゲートに付きっきりで、
最終的に、疲れてしまいました。

こうなったら経理部に居る、スフィンクスというビジネスネームの大親友に、救援要請です!

「スフィえもぉーん!何か良い案出してぇー!」

「あー?お前があんだけ頑張ったのに、まだ例の不具合解消してねぇの?」
自作の超高性能コタツ、Ko-Ta2でミカンシャーベットなど食っておるスフィンクスです。
ドワーフホトが泣きついてきたので、すべてを理解して、あんぐり!開いた口が塞がりません。
「こりゃあ、俺様があの地球に直接出向いて、原因突き止めるのが、手っ取り早いかもな?」

手っ取り早いというより、それしかもう方法は無いんじゃないかねぇ。
コタツに一緒に入っておったノラばあちゃんが、他の局員から注文を受けた秋用レーヨンストールをせっせこ編みながら、言いました。
というのもスフィンクス、普段は人間の姿でコタツにインしてミカンなど食べていますが、
実はその本性は、科学の技術も魔法の呪文も必要とせず、生身で世界と世界を行き来できる、超強大なチカラと能力を持ったモフモフなのです!

ということでスフィンクス、人間形態からモフモフ形態へ、変身解除です。
フサフサふかふかなスフィンクスの体は、大人のクマよりは大きい猫のようで、
あるいは、ゾウの子供よりは小さいドラゴンのようでもありました。
『じゃ、ちょっくら行ってくるぜぇ』

不思議な不思議なネコドラゴンの本性に戻ったスフィンクスは、今回のお題を回収するように、
コタツの中からスイカを掘り出し、竹細工のかごと縄を掘り出し、コタツの上のミカンをがばちょ。
全部ぜんぶ、カゴに詰め込んで……??

「スフィちゃん、それ、どーするの」
『あ?決まってるだろ。冷やすんだよ。
真夏といえば井戸水でキンキンのスイカ!ミカン!
あっちの地球の映画で観たから間違いねぇ』
「危ないよ、寄生虫とか菌とかが居るかもだから、水道水とか氷水とかで冷やした方が、良いよぉ」

『ホトは心配性だなぁ』
「心配とかじゃなくて事実だよぉぉー!」

じゃ、行ってくるぜー。
ドワーフホトの忠告を全然聞かないネコゴンです。
んなぁぁぁああおう、んにゃあああおう、
ひと声ふた声、ドラゴンネコが鳴きますと、
モフネコゴンの目の前に、きらめく宇宙のような穴が出現しまして、真ん中に地球が見えています。

『いざ!真夏の記憶に出発〜!』
待ってろよ俺様の冷やしスイカ!冷やしミカン!
スフィンクスが穴の中に飛び込むと、穴はキレイな光の粒を残して、パン!消えてしまいました。

空を駆けて大気圏に侵入し、光の尾を引くスフィンクスは、日本めがけて絶賛加速中。
『えーと。どのあたりだったかな』
大気圏の上層、熱圏の高温など、スフィンクスはヘッチャラ。そういう体なのです。
ちょっとやそっとの「灼熱」など、スフィンクスには、ぬるま湯程度もないのです。

ただスフィンクス、寒いのは大の苦手です。
中間圏から対流圏あたりまで広がる酷い極寒を快適に通過するため、摩擦熱を稼ぐ必要があります。
中途半端な熱は意に介しません。
これこそスフィンクスの本性の、真のチカラの一端。はじっこ程度なのでした……

が、
ところでスフィンクス、真夏の記憶を堪能したくてスイカだのミカンだの持ち込んだようですけど
スフィンクス自身は灼熱ヘッチャラとして
持ち込んだカゴとスイカとミカンと縄って
大気圏上層の1000℃に耐えられるんですかね。

『あー!!のわぁぁー!俺様のミカン!!』
そうです。大事に持ってきたミカンもスイカも、それらを入れて冷やすためのカゴも、
全部ぜんぶ、大気圏の高温と摩擦熱とで発火して、
美しい光の尾として、散ってしまったのです。
『ウソだろ!ああ!俺様の真夏の記憶ぅぅ!!』

にゃああおぉぉぉぅ!!んなぁぁぁああおう!!
悲しい大声でひと吠えして、ふた吠えして、スフィンクスは日本に降りてゆきます。
熱圏の灼熱も、成層圏の極寒も、全部ぜんぶ通り抜けて、25℃前後の熱帯夜、東京の夜に着地です。
『うう、ううぅ……おれさまの……俺様の、夏……』
管理局が日本とのゲートを設置している、某稲荷神社の庭に到着したスフィンクスは、
その後十数分、しょんぼり落ち込んでおったとさ。

8/13/2025, 5:38:20 AM