‪スべてはキみのセい。

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【自転車に乗って】

僕は、その日もいつものように自転車に乗っていた。高校三年の夏休み、何の予定もなく、ただ風を感じながらどこか遠くへとペダルを漕いでいく。それが僕の日課だった。

暑さが肌にまとわりつき、セミの鳴き声が耳に残る。空は雲一つない青で、陽射しはじりじりと照りつけてくる。それでも、自転車に乗っていると、不思議と暑さは気にならない。風が汗を拭い、僕の中に何かを解き放つような感覚があった。

その日は、いつもと少し違う道を選んだ。理由はない。ただ何となく、見知らぬ道に引き寄せられたのだ。好奇心というのだろうか、少しだけ冒険してみたくなった。

田舎道を進んでいくと、やがて目の前に古びたトンネルが現れた。入り口は暗く、冷たい空気が漏れ出している。昼間なのに、トンネルの向こう側は何も見えなかった。少し怖いと思ったが、同時に引き返す気にはなれなかった。何かが僕をそこへと誘っている気がした。

トンネルの中に足を踏み入れると、周囲の音が急に消えた。自転車のタイヤが砂利を踏む音だけが、かすかに響く。まるで時間が止まったような、静寂が広がっていた。僕は無意識のうちにペダルを漕ぐスピードを緩め、慎重に進んでいった。

トンネルを抜けたとき、目の前に広がった光景に息を呑んだ。そこは見たことのない世界だった。どこか懐かしいよとうな、でも確かに現実とは異なる場所。草原が広がり、遠くには小さな村が見えた。村の上空には、ゆっくりと回る風車が見える。けれど、その風車が回る速さは、僕が知っている風の速さは違っていた。

自転車を止め、ぼう然と立ち尽くしていると、一人の少女が現れた。白いワンピースを着て、長い髪を風に揺らしている。彼女は僕に向かって微笑みながら、ゆっくりと近づいてきた。

「ここに来たのは、あなたが初めてじゃないの?」

彼女の言葉に、僕は驚いた。初めて会うはずなのに、彼女の声にはどこか懐かしさがあった。

「どうして僕がここに?」と尋ねると、彼女はただ微笑むだけだった。

「この場所は、心の中のどこかにある場所よ。あなたが忘れてしまった何かを、思い出させるために存在するの。」

彼女の言葉の意味がよくわからなかったが、不思議と納得する自分がいた。この場所も、彼女も、どこかで知っていた気がする。

「でも、時間が来たら戻らなきゃいけないのよ」と、彼女は寂しそうに言った。「また、会えるといいね。」

その瞬間、目の前の景色がぼやけ始めた。風が強く吹き、僕は自転車に乗り直してトンネルを抜けることしかできなかった。

振り返った時には、もうあの世界は消えていた。戻ってきたのは、見慣れた田舎道。ただ、心の中に残るあの少女の微笑みが、僕にあの出来事が現実だったことを教えてくれていた。

それ以来、僕は何度もあのトンネルを探したが、二度と見つけることはできなかった。あの夏の不思議な出来事は、心の奥にしまい込まれた、僕だけの秘密となった。

8/15/2024, 1:03:17 AM