22時17分

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あなたのもとへ勇者が来るようです。

P.S、追伸と書かれた部分を読んで、「またか」と彼は呟いた。

世界平和を望む王国と、裏で牛耳る魔王の城。
城もわかりやすく対比をとっている。
荘厳で宗教然とした風格のある白い城。
それが王国の方だ。
そうくれば、魔王城は闇一色。
一応彼は平和主義者のため、率先して襲った覚えはないが、危険視されている。誰もが近寄ってはならぬという危ない気配を醸し出して、世界に威嚇する。なのに、勇者は懲りずに来る。

元々、魔王である彼は悪役ではなく、ただの一般男性である。ちょっと腕に覚えがある強い人で、創業血族の魔王を滅ぼしたことがある。
討伐後、帰る家がなかったし、ラスボスにしてはゴールドを落とさなかったので、しばらく借りぐらしをしていただけだったのだ。
手紙を書いた送り主は王国の王女様であるが、彼の幼なじみでもあるし、許嫁でも深窓の令嬢でもある。魔王討滅時の古き仲間でもある。そんな旧知の仲なので、こんな風にちょくちょく手紙を書いてくる。
かつては彼のヒモやおサイフでもあった。借金をして保証人にもなってくれたし借金の肩代わりもしてくれた。至れり尽くせりである。
それでちょっと王国に目をつけられている、というのもある、のかな? たぶらかした覚えはないんだけどなぁ、と頬を引っ掻く。

手紙を出されたら出さないといけない。
彼は城の主であるので、素直に書くことにした。

「手紙読みました。今度デートしてください。近い内に誘拐してもいいですか。
 P.S 勇者は殺してOKですか。」

返事は秒で来た。

「いいですよ。あなたといるなら、誘拐でも何でも。
 P.S 好きにしてください。私も言い寄られることが多くて目障りな存在なのです」

こんな風に、手紙の中だけは彼女も王女様をやめている。普段はおしとやかで、白いレースのドレスを着こなして、優雅に会釈をするタイプなのだが、彼とやり取りする時は「本音」を言ってくれる。

「なら、誘拐ついでに式を挙げるのはどうですか?
 魔物の軍勢を引きつれて、国民殺されてる中で君と誓いのキスをしたいです。
 P.S 勇者の件が終わったら来ます。勇者の首を手土産にしたい」

返事はすぐに来た。
手紙の文字が震えまくっている。

「――! ほ、本望です! 我が国の臣民なんて、あなたに殺されるために生かされてるだけの生きている価値のない人間ですから、ぜひとも血飛沫の花にしてください
 P.S 早く向かわせるように、こちらの方で急かしておきます」

……そろそろ幼なじみをやめてもいいかな。
まだ続けていたのは世界平和のためである。その大義名分がなくなったのなら、同棲したっていいだろう。
勇者が大量にくるだろうが、愛の力で蹴散らしてやる。
その時は金を落とせよ、今俺は金欠なんだ。

1/16/2025, 12:07:55 AM