18.『あなたは誰』『ひそかな思い』『夜空を駆ける』
最近、とある男性の事ばかり考えている。
数日前、危ないところを助けてもらって以来、彼の顔が頭から離れない。
もう一度会いたいと密かな思いを抱えつつも、未だに再会は出来ていない
会いに行こうにもどこの誰かも分からず、人の多いところを探しても彼はどこにもいない。
あまりの手ごたえの無さに『幻でも見たのか?』と不安になるも、彼に会ったのは間違いない事実。
彼を見た時の胸の鼓動は今でも覚えている。
間違いなく彼は存在する……
「もう一度会いたい……」
小さく呟きながら、あの時の事を思い出していた
◇
数日前のこと、残業で遅くなり帰るのが深夜になってしまった日の事だ。
人気のない道を歩いていると、強盗に襲われてしまう。
「金を出せ」
強盗の手には、ギラリと光るナイフがある。
それを見た自分は恐怖のあまり、その場から動けなくなってしまう。
頭が真っ白になり、犯人の言う通りにカバンから財布を取り出そうとした、まさにその時だった
「大丈夫ですか?」
ハッと顔を上げると、強盗がいた場所にイケメンの男性が立っていた。
(強盗がイケメンにジョブチェンジした……?)
そんな場違いなことを考えていると、視界の隅になにか転がっている物が見えた。
強盗だった。
状況から察するに、この男性が強盗をやっつけたらしい。
(どんな早業なんだ……)
強盗に脅され、財布を取り出そうと目を離していたのは十秒ほど。
そんな短い間に、男性はどこからとなく現れて強盗を一瞬で組み伏せた。
まるで漫画みたいだ。
この人、一体何者なんだろうか……
「救急車を呼んだ方がいいですか?」
急展開に付いて行けずぼんやりしていると、彼が心配そうに声をかけてくる
何も反応が無いので、頭でも打ったと心配されたのかもしれない。
どこにも悪いところは無いので、慌てて弁明をする。
「い、いえ、大丈夫です。
驚いてしまって……
怪我はありません」
「それは良かった」
彼は安心したのか、輝く笑顔でうなずく。
よっぽど心配していたらしい。
悪い事をしたと反省する。
「大丈夫そうなので、僕はもう行きますね」
と言って、その細い体のどこに筋肉を隠しているのか、彼は強盗を軽々と担ぎ上げる。
けれど強盗を担いでどうするのだろう……
不思議そうに見ていると、彼が答えてくれた
「警察に突き出します。
あなたも気を付けて」
コクリと頷くと、彼は満足そうに微笑む。
そして彼は振り返り、近くの家の屋根まで飛び上がった。
……屋根まで飛び上がった?
目の錯覚かと思い、思わず目をこする。
しかし彼は依然と屋根の上にいて、それが現実だという事を示していた。
そうして呆気に取られている間に、彼は隣の屋根に飛び移り、また隣の屋根に飛び移る。
その夜空を駆ける様子はまるで――
「忍者……?
実在したんだ……」
そうして彼は、闇夜に消えたのであった。
◇
この出来事、寝ても覚めても彼の事ばかり。
一時も彼の勇姿を忘れた事は無い。
ほくろの位置まで思い出せる。
でも彼について何も知らない。
あなたは誰?
どこにいる?
今何をしている?
分からないことだらけだ。
でもたった一つ。
ハッキリしている事がある。
それは彼に再会した時の言葉。
「弟子にしてください」
男は皆、一度は忍者に憧れるもの。
自分も例外ではなく、忍者になれる日を今でも夢に見ている。
なんとしてでも弟子入りせねば!
「会いたいなあ……」
何度目か分からないため息を尽き、今日も忍者の彼を探しに街へ繰り出すのであった
2/23/2025, 4:34:17 PM