フグ田ナマガツオ

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「こうして会うのは久々だな」

天河タケルは口角を横に大きく開いて、ニカリと笑った。
暗闇に光るようなその笑顔は、最後に一緒に舞台に立ったその時と、なんら変わらないように見えた。

「そうだね、2年ぶりくらいかな」

「もうそんなになるか」

「劇団、先週解散したよ」

「そうか」

「あのことがあってから、ずっとそうなる気はしてた。あれから何回練習しても上手く合わなくて、次の公演、大失敗だった。SNSでも結構バッシングが酷くて、そのうちみんな辞めてっちゃった」

天河は黙って聞いていた。
何か言いたそうな素振りもない。
私がここまで来たのは、確かめたいことがあったから。
私は天河を真っ直ぐに見つめた。

「教えてよ。志乃を殺したホントの理由」

長い沈黙の後、厚いガラス越しで、天河はため息をついた。
残り5分、と看守が告げる。



天河タケルはウチの劇団でダントツの人気を誇る舞台俳優だった。
3年前にウチに入団し、瞬く間にトップに上り詰めた。
ルックスだけでなく、役をその身に宿したような演技が評価されて、すぐに映画やバラエティにも呼ばれるようになった。
一等星の溢れる芸能界でも、天河の輝きは一際だったようで、色んなメディアで活躍していた。

しかし、どれだけ仕事が増えても、天河は舞台に出るのをやめなかった。
ひとたび舞台に上がれば、全力で役を演じて、当然のように客を魅了する。

闘志を剥き出しにしてギラつくその目は、使命というより、執念に燃えているかのように見えた。
テレビに出始めるようになってから、特にその傾向は強まった。
台本を食らいつくように読んで、ブツブツと何かを呟いては、頭を抱える。
そんな時間が増えていた。
それでも舞台に立てば誰よりも凄まじい演技をする。
その姿が少し怖くて、でも美しかった。

ロングランの公演の千秋楽。
ラストシーンは天河の一人芝居。

主人公は、屋敷に火をつける。
音楽が流れて、主人公は屋敷の中で踊り続ける。
悶えるように、楽しむように。

演者のほとんどは袖にいて、食い入るように天河を見ていた。
怖いのに目が離せない、不思議な感覚だった。

音楽が鳴り止んで幕が下りると、演者が出てきて挨拶をする。
その時出てきたメンバーに志乃はいなかった。
探しに戻らないと、と思ったけれど、そのまま続けるよう指示があったので挨拶を済ませて楽屋に戻った。

そこで、着替えを済ませようとした時、ノックが響いた。
開けると、そこには警察の人が立っていた。

志乃の死体は見ることができなかった。
ただ、ナイフで心臓を刺されていたことと、殺されたのが舞台の間だということを知らされた。

その日は、着替えもそこそこにすぐに帰らされた。
起こったことに現実味が感じられなくて、ぼーっとしたままだった。

犯人を知ったのは、次の日だった。
大仰な見出しとともに天河の顔が、記事に載っていた。
動機については、痴情のもつれと説明されていた。

しかし、私は違う理由がある気がして仕方なかった。
天河の演技を思い出して、私は仮説を建てていた。

「完成させるため、だったんでしょう?」

天河の表情は変わらない。
室内に響く土砂降りは、拍手に似ていた。

3/16/2023, 10:00:53 AM