『子供のままで』
よく分かんない。それが彼の口癖だ。
「これってどういう意味?」
授業でわかんないとこあったから教えてとでもいうノリで、奴はラブレターを見せてきた。SNSで繋がっている同じ学年の女子らしい。
昼休みの部室で良かった。
二人しかいないし、お茶をこぼしたとしても拭けばいいだけだから。
拭き終わるとろくに見ないまま奴のスマホを隅に置く。
「多分告白じゃない?」
「告白かあ。果たし状だったらどうしよう」
「んなわけあるか! 私は勉強しにきたの。部活はまた放課後やるからさ」
「だってよく分かんないからさあ」
そこ間違ってると言って部室を出ようとする彼に、歯をむき出して手でしっしっと追いやる。
頬を膨らませた彼は戻ってくると机を叩いた。
「僕は、真宏ちゃんといる方が楽しいよ!」
それだけ言うとドアを閉めて出ていった。
「なにあいつ……」
本当に子供のままなんだから。
頭では冷静に考えていても、感情に従順な頬はみるみる火照ってくる。顔が赤くなって口元がにやけてきているのを感じ取ると、開いていたノートを閉じた。
「何なのよ、あいつはぁ」
どうせまた帰ってくるだろう。
そう思いながら少しだけ腕枕でふて寝することにした。
5/12/2024, 12:55:59 PM