世はまさに大SNS時代である。日常の些細なこと、日々の何もかも、人生を切り売りしてガラス瓶に詰め、人々はネットの海に放流する。詰められたものに油が染み込んでいれば海上で火炎瓶さながらに燃え出し、漏れ出た油は海を汚す。触発されて投げ込まれた瓶もまた燃えて、辺りは地獄絵図の様相を見せる。
環境汚染を防ぐためには、最初から燃えそうなガラス瓶を流すのをやめるしかない。今や現実では言いにくいことをネットに書き込むのではなく、ネットに書きにくいことを現実で言う時代なのである。
「というわけで、証拠の残らない現実でしか言えないこと大暴露大会をしよう」
先輩が言った。頭のおかしい大会が始まったなと思った。そのまま言った。なんで? という顔をされた。それはこちらのセリフなんですが。
「普段からたくさん我慢してる後輩に、言いたいこと全部言ってすっきりしてもらおうっていう先輩の優しいはからいだよ?」
「先輩自身が言いたいことあるわけじゃないんですか? 大会なのに?」
それは大会ではなく命令なのでは。
「私は言いたいと思ったときに全部言ってるからね」
なぜか得意げに言ったあと、先輩は軽く目を伏せた。その目が慈愛の色をしていてなんだか落ち着かない。
「君は優しいから、何でも溜め込んでしんどい思いしてないか心配なんだよ」
それを言うなら目下あなたへの気持ちだけが行き場なく仕舞いこまれていますが、僕はこれを一等綺麗なガラス瓶に詰めてどこの海にも流さないまま抱いて墓の下まで持っていこうと思っているので気にしないでください。
なんて言えるわけもなく、僕は「優しい先輩が気遣ってくれるからしんどくなんてないですよ」と息をするように嘘を吐く。「そっか」とすんなり受け入れた先輩の横で、僕のガラス瓶の中身がさらに増えた音がする。
2/7/2026, 4:40:28 PM