【桜散る】【無色の世界】【雫】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
4/6 AM 10:30
「桜がもうだいぶ散っちゃってたねぇ」
ショッピングモールへ向かう道の途中で
見た桜並木を思い出したのか、
暁が残念そうに呟いた。
「そうね」
「他のお花も咲いたら散るのは一緒なのに、
なんでか桜が散るのってすごく寂しい
気がしない?」
「……そうかもね」
小さな花びらが降るように散る様子が、
まるで淡く消えてゆくようで、
美しさと同時に、物悲しさを感じさせる
せいかもしれない。
「ショッピングモール内のお店は、
まだ桜フェアっぽいけどね!
あ、見て見て宵ちゃん、可愛いのが
いっぱいあるよ!」
そう言って、暁がプチプラアクセの
ショップの方へ歩いていく。
桜フェアを謳っているだけあって
桜モチーフのピアスやイヤーカフ、
ネックレスやリングが並んでいて、
春色にキラキラ輝いていた。
「桜の形もモチロン可愛いんだけど、
個人的にティアドロップもすごく
可愛いって思うんだよね。これとか」
暁が指差したのは、ヴィンテージピンク
とでも言えばいいのか、仄かなピンク色の
小さめの雫型イヤリングだった。
桜の花びらのように見えなくもない。
「似合うわよ」
「えっ、そう? ……ん~、でも、
こっちも気になるかなぁ」
暁が次に指差したのは、同じ雫型の
イヤリングで、無色透明のもの。
「これって、水晶? ……こんなに
色彩豊かなアクセが揃ってるのに、
無色なものが気になるの?」
「だってほら。無色だからこそ、
光のあたり方でいろんな色が
写り込んで綺麗じゃない?」
ね? と小首を傾げながら
イヤリングをアタシに見せて
楽しそうに笑う暁を見て、
無色の世界なんて、暁の瞳には
存在しないんだと思った。
【ここではない、どこかで】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
4/3 PM 3:00
「ねぇ、宵ちゃん。
宵ちゃんは、ここじゃないどこかで
わたしたちが生きてるとしたら、
それってどこだったら楽しいと思う?」
ゲームに集中していると思ったのに、
暁が不意にそんなことを聞いてきた。
大きく伸びをしている辺り、
集中し過ぎて疲れたのかもしれない。
「どこだったらって言われても」
「ほら、こないだわたし、大正浪漫感が
溢れる夢を見たって話をしたでしょ?
真夜(よる)くんも、わたしたちが
ホグワーツに通ってる夢を見たことが
あるって言ってたの。
だから、宵ちゃんにも聞いてみたく
なっちゃって。どんな世界観だったら
宵ちゃんは楽しいって思うかなって」
ニコニコ笑う暁の顔を見返しながら、
仕方なく考えてみる。
ここではない、どこかで。
アタシたちが生きているとしたら――。
「……どこだっていいんじゃないの。
アンタと真夜がいれば」
――そう。
重要なのは《どこなのか》じゃない。
2人が側にいるかどうか。
そうじゃなければ、どこだったとしても
楽しくないし、意味がない。
「……宵ちゃんも、時々さらっと殺し文句
言うよね。一撃で心撃ち抜くような」
「そんな大層なこと言ったつもりはないけど」
「いいの。わたしは嬉しさを
噛みしめてるから」
4/25/2023, 3:10:18 PM