かたいなか

Open App

「『空』はねぇ、3月から数えて、『星空』2回に『空模様』等の天候ネタ3個、その他空ネタ2個に今回のコレで、合計8個目なんよ……」
「空」明記のお題だけでコレだから、他に「雨」とか含めれば、きっと20は空ネタ書いてきたな。
某所在住物書きは過去配信された題目の、タイトルを追って呟いた。
確実に、空ネタは多い。いくつかネタをストックしておけば、いつか、お題配信とほぼ同時にコピペでズルできる日が来るだろう。 多分。

「……問題は俺自身、もう空と雨がネタ切れ寸前ってことよな」
きっとまた「空」は1〜2回遭遇するだろうし、天候として「雪」出題はほぼ確定であろう。
それまでにネタ枯渇を解消できるだろうか。

――――――

最近最近の都内某所、低糖質ケーキの美味いオープンカフェで、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、どこまでも続く筈の青い空を見上げている。
名前を藤森という。
思うところあって、今日の仕事は有給によりパス。
高気圧に覆われ、ようやく夏日から開放された最高気温22℃は、それでも雪国出身の藤森としては、十分暖かく感じる。
スマホを取り出し、故郷の天気予報を呼び出すと、明日の最低気温は5℃であった。

「短かったな。東京での生活は」
藤森はコーヒーにミルクを落とし、クルリかき回して、ため息とともに口に含んだ。
「それでも13年か」

諸事情持ちの藤森は、雪国から上京してきて恋をして、その恋人に心を一度壊された。
初恋相手を加元という。
向こうから先に惚れてきたくせに、いざ藤森が惚れ返すや否や、「地雷」、「解釈違い」とSNSで、ボロクソにこき下ろしたのだ。
それだけならば、ただのよくある失恋話。
スマホの番号もアカウントも新調し、自分の名字も合法的に「藤森」に変えて、区を越え住所も変更して、加元と完全に縁切ってみれば、
なんということだろう、己の手から勝手に離れた藤森を追って、加元が藤森の職場に押しかける始末。
挙句の果てに、現住所を特定するため、職場の後輩に探偵までけしかけた。

詳しくは過去作8月28日と、9月5日投稿分参照だが、そこまでのスワイプがただただ面倒なので、気にし過ぎてはいけない。

「もう、十分だ」
自分がいるから、職場と職場の後輩に、事実として多大な迷惑がかかった。
藤森はとうとう決心し、ようやく昨日で、事前準備のすべてが完了した。
あとはアパートの管理人に事情を話し、部屋の解約手続きを済ませ、職場に退職届を提出して、良さげな飛行機を予約し、地下鉄の終電に飛び乗るだけ。
東京から離れ、雪降る故郷へ帰るのだ。

この2〜3年で、やたら風力発電が進出して、発電機を乱立させ、遠景のいびつに崩れてしまった故郷へ。
それでも未だ山美しく、花咲き誇り、どこまでも続く青い空に風吹き渡る、自然豊かな故郷へ。
「今なら、キク科とキンポウゲ科の季節かな」
帰ろう。そうだ。帰ろう。
遠い遠い田舎に引っ込めば、加元も自分を諦めて、あるいは執念深く追ってきて、
いずれにせよ、東京の職場や後輩、それから親友に、これ以上危害を加えることは無いだろう。
「それで、十分さ」

数秒目を閉じ、開いて、コーヒーを飲む。
再度空を見上げようとした藤森は、しかし己に影を落とす者が在るのに気付き、
はたと、振り返ると、
「やっぱりここに居た」
職場の後輩が、うしろでケーキを載せたトレーを手に、藤森の目をじっと見ていた。
「私に秘密で、良くない考え事してたでしょ」

「なぜ、」
「だって先輩が突然有給取るとか、珍しいもん。バチクソ怪しいもん。絶対何か企んでるでしょ」
「別に、お前に迷惑のかかるようなことは、」
「じゃあ先輩自身が迷惑かかってるハナシだ。加元さんの件に一票」
「……」

「ねぇ先輩。ダメだよ。行っちゃダメ」

10/23/2023, 2:40:38 PM