NoName

Open App

終わらせないで

「新しい友達とトークしよう」時々そんなメッセージがラインに届きアイコンが表示されている、誰だか分からないのは即ブロックなのだがその日は、とても懐かしい名前が上がってきていた、思わずアイコンとホーム画面をチェックした、彼女に間違いないと思った。クリスタルブルーのキラキラホームに可愛い昔懐かしいキャラクターのアイコン、そのキャラクターも実に彼女らしくて思わず脳裏に小学生の頃の風景が走馬灯のように駆け巡った、そんな目覚め。

コーヒーを入れながら休日の少し遅い朝を迎えていた、家族はもう出払っていて愛猫と向い合せ、もう一度スマホを手に取りラインに上がった彼女のアイコンを眺めた、、メッセージ入れてみようか?でも、もう20年以上は連絡取っていないし、私は彼女の今の住所も連絡先も知らなかったのだ、けれど、あまりに懐かしその名前に思わず「〇〇ちゃん?」とメッセージを入れた、暫くスマホとにらめっこしていたが返信も既読にもならず、そのままスマホを閉ざし家事をしていた、お昼頃ラインメッセージの到着音にスマホを開くと「そうよ、お久しぶり」という返信が来た。実に意思疎通のやり取りをするのは彼女の結婚式の後以来だろう。それから生きる道が随分変わり疎遠になり何時しか連絡も途絶え、随分前に同窓会の連絡を古い携帯番号に入れたが繋がらずそれきりだった。彼女の実家は知っているけど今はご両親だけなはずだし、少し敷居も高く、帰省しても訪ねることはなかった。そんな彼女と久し振りに繫がれて他愛のない昔話のやり取りで盛り上がり、互いの近況報告に至って言葉を失った、それは「元気にしてる?」の言葉から「まあ、元気かな、、癌だけど」だった。彼女はことのほかナイーブな人だと知っていたので、どう返したらと思ったが、まあそう言われたら「大丈夫なの?手術とかなの…」と返した。「乳癌が見つかった時には肝臓に転移していて、再発して脳にも転移した…」もう手術はしないのだと言う、なんてことだ、昨年一昨年と義両親を共に癌で見送った私には、どんな状態か想像出来たからだ。その言葉を私は口にしなかった、彼女に確かめなかった、確かめる必要ないと思った。極懐かしい友達に久し振りに連絡出来た、先ずそのことを喜び合いたかったからだ。そして1番気になっていることを彼女にそれとなく尋ねた、ご両親のこと私たちは共に一人っ子同士(その頃田舎では珍しかった)で、私は早くに母を亡くしているので彼女のお母さんには、良くしてもらったからだ。すると彼女は「母は2年前に亡くなった」と返信が来て、まあ、お互いの年齢も親の年齢も考えれば見送りの時期だから、あり得る話しだが、彼女が癌の告知を受けたのがちょうどお母様を見送るその1年ほど前で、彼女はその頃に年老いた父に任せていた母の介護をするために東京から帰って来ていたそうだ、そして更にその3年ほど前に離婚していた。バリキャリで結婚も遅目だった彼女は、方言もすっかり話さない都会に染まった才女だったはずなのだ。なによ、そのキャラ壊さないでよ、あなたは昔っからクラストップのいや、学年トップの優等生で、ずっとそうで、あなたと同じ中学高校に行けたのは私の自慢で、関西きっての難関国立大学に現役入学して、将来最有望視され、バリキャリで東京で働いてんじゃなかったの!?そのままでいてよって。それからライン電話に切り替えて、弱くなった彼女の声を聞いて、私は泣かないように一所懸命自分の太腿を抓っていた。

それから、毎日のように彼女から連絡があり、私は、彼女のお母様に選ばれたような気がしています。「有り難うございます」私はお母様の変わりにはなれませんが、満身創痍で故郷へ帰って来た友人のそう遠くないかも知れないエンディングの側に居させてもらいます。幸い私ももう、セミリタイアの身で仕事も楽になりましたから、二人いや、故郷の友人たちみんなで集まって終わらない昔話をしたいと想います。

どうか、そんな昔話を、終わらせないでください。

久かたの 光のどけき
小春日(春の日)に
静心なく 花の散るらむ

もう一度咲け 冬桜


令和6年11月28日

              心幸

11/28/2024, 11:25:45 AM