お題:1000年先も
「100年ならまだギリいけそうだけど1000年だとさすがに無理だよね」
「なんの話だ?」
「100年後も愛してるよ、みたいな歌詞がちらほらあるなと思って」
イヤホンを外して隣に座るイッセイを見る。スマホをタップすると、さっきまで高らかに愛を歌っていた曲が沈黙した。
この家でイッセイと生活するようになって数年経つ。私とイッセイは恋人ではなく、私が一方的に「ついていきたい」と言って一緒に過ごしてるだけだ。今日は特に予定がないから、二人並んでソファに座っておのおの好きなことをしている。
「今は人生100年時代って言うからな。昔はそんな長生きするなんて考えらんなかった」
「そのうち人生1000年時代来るかな?」
「さすがに無理だって」
「イッセイは今まで何年生きたんだっけ」
読んでいた本を閉じたイッセイは宙を見据えて考える。
「んー、500年くらいか」
イッセイでもまだ1000年の半分か、と思う。
イッセイは不老不死だ。
なにもかも投げ捨てたいほど無気力だった頃、私はイッセイと出会った。いろいろあってイッセイに救われた私は、彼についていくと決めた。でもイッセイにとって私はそこまで大事な存在じゃないかもしれないと感じはじめている。「イッセイ」という名前が本名なのかさえ、私は知らない。
「今まで会った人たちのこと覚えてる?」
「全員は覚えちゃいねえ。でも覚えてる奴もいる」
覚えてる人と覚えてない人の違いはなんだろう。
私は普通の人間だから、イッセイより先に死んでしまう。私が死んだあともイッセイに私を覚えていてもらうためには、どうしたらいいんだろうか。
黙ったままの私の頭に、大きな手が載せられる感触がする。そのまま手は雑に左右へと動いた。
「安心しろよ。こんなに俺について来てる奴はお前だけだ。お前のことは1000年経っても忘れねえよ」
ぐちゃぐちゃにされた髪を整える私の肩から、安堵で力が抜けるのを感じた。
2/3/2026, 11:36:58 PM