John Doe(短編小説)

Open App

オーキードーキーなある日の物語


僕はロサンゼルスのスローソン通りにある劇場に入る前から、酷くがっかりしていた。一枚10ドルのチケットを二枚買いながら、彼女に嫌われないよう、なるべく態度に出さないように努めるのが精一杯だったな。

本来、その日は学校でもそこそこ仲の良いジェミーと最新の戦争映画を観に行く予定だったんだ。だけど当日の朝、僕のとびきり美人な彼女、モルが『演劇を観に行こう』とデートに誘ってくれたのだった。君なら、そこそこ仲の良い友人と、とびきり美人な彼女、どちらを優先するかい? 僕は半時間ほど迷ったが、彼女の方を取ったね。やっぱり僕は男だからさ。

それで、デートで最後はキスでもできたらな、なんて下心を隠しながら、いかにも知的な雰囲気の服装で待ち合わせのバス停に向かったんだな。そしたらモルもすごく清楚な服でやって来たんだ。この時、僕は舞い上がっていたね。正直、演劇なんかより、こんな美人とデートできることが何より嬉しかったのさ。

そんでバスはスローソン通りの劇場付近に到着し、僕はそこで酷く頭を打ったような感覚になった。演劇のタイトルがシェイクスピアの『ヴェニスの商人』だったからなんだ。これにはこたえたね。まだ『千夜一夜物語』の方がマシだったろう。だけどモルときたら、楽しみで仕方なさそうなんだ。僕はかなり憂鬱な気分で劇場に入っていったね。

『ヴェニスの商人』の内容は知っていた。だからきっとつまらないだろうと、演劇を内心バカにしながら観ていた。あーあ、ジェミーと戦争映画を観たかったな。彼女の方はというとね、すごく熱心に観てるんだ。睡眠薬でもありゃ飲んで寝てしまおうかと思ったその矢先さ。

『お前の肉を1ポンドいただくぞ!!』

ユダヤ人の金貸し役の演技がものすごいのなんの、僕の憂鬱は一瞬で吹き飛んだね。まるでプロボクサーの全力のアッパーを食らったみたいになったのさ。それからはもう、僕は食い入るように劇を観ていたね。音楽もまた良かったんだな、これが。

いやあ、本当に良かったね、と劇場を出た後、カフェで彼女と語り合った。もう僕らは興奮しちゃってさ、夕方までカフェで雑談してその日は終わったんだけど、とても充実した一日だったよ。戦争映画は今度一人で観に行こうと思う。彼女との別れ際にしたキスがまた良かった。

いや、本当に演劇はいいよ。10ドルの価値はある。だけどそれをジェミーに伝えると、アイツ僕をからかうんだろうな。それでもいいさ。
オーキードーキーだよ。まったくね。

10/18/2023, 3:15:14 PM