せつか

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なんだかよく分からない夢を見た。

船に乗っていた気がする。
船に乗って、甲板に出したリクライニングチェアに座って、ぼんやり波を見つめていた。そんな優雅な船旅などこれまで体験したことが無くて、だからこれは夢だと思った。
リクライニングチェアの横にはサイドテーブルがあって、シャンパンまで用意してあった。
まるで貴族か大富豪にでもなった気分で、青い空を見上げながら白い波に揺られている。

どれくらいそうしていたのか。
青い空がいつのまにか灰色に変わり、穏やかだった波が次第に激しくなっていた。
リクライニングチェアで長まっていた体が不安定に揺れ始める。
怖くなって半身を起こし、辺りを見渡した。
「――」
誰もいない。
そこそこ大きな船のはずなのに、なぜか自分以外船員の姿はどこにもなかった。
激しくなる波に合わせて体が何度も上下する。
リクライニングチェアから立ち上がり、揺れる甲板の手すりに掴まる。
「·····」
波はいよいよ激しくなる。力を入れて掴まっていないとひっくり返ってしまいそうだ。
「――」
怖くなって思わず名を呼ぶ。

◆◆◆

そこで、目が覚めた。
「起きた?」
「――」
呆然として見上げる。
黒い瞳が面白そうに自分を見下ろしている。
「君が寝落ちしちゃうなんて珍しいね。そろそろ起きて。会議始まっちゃうよ」
ゆっくり視線を動かすと、肩に手が置かれている。
「いいでしょ、たまには。いっつも君が俺を起こしてくれるからさ。今日は逆だね」
クスリと笑うその顔は、心底楽しそうで。
「·····」
からかわれているのだと、気付いた。

「おわっ、なになに? 君から抱きついてくるなんて珍しいじゃん」
「うるさいよ」
「·····」
「お前が揺するから変な夢見たんだ」
肩に顔を埋めて呟くと、またクスリと小さく笑う。
「ごめん」
「いいよ、別に。でも――」
「でも?」
言うか言うまいか、少し迷った。
「会議室まで連れてって」
「·····いいの? みんなに見られるよ?」
「いいだろ、たまには」
ぶっきらぼうに呟くと、額に口づけが一つ降らされた。

会議室まで、ここから徒歩約三分。


END


「たまには」

3/5/2026, 12:01:40 PM