う、嘘だろ。
全員で、俺をドロ4で狙い撃ちしやがって。
分かった。
分かってるよ、『UNOで負けた奴は面白い話をする』だよな。
覚えてろよ。
で、お題は?
『忘れられない、いつまでも。』?
また変なお題を……
と言っても忘れられないことなんてないぞ。
俺の人生に特に波乱もなく、お前らと違って堅実な人生を送ってるから、別にそういうのは――
あ、一つあったわ。
でもあの話は……
いや待て、そんな前のめりになるな、分かったから、話すから。
まったく……
なんなんだよ、その食いつきは……
コホン。
えー、俺が中学生の時の話。
俺、中学生の時は電車通学だったんだ。
自転車か電車かっていうギリギリの距離だったけど、まあ、ちょっとだけ背伸びたくてね。
電車通学にしてもらったんだ。
それで毎日、通学の時、駅で乗り降りするわけなんだけど、あったんだよ。
『開かずの扉』。
学校の最寄り駅の待合室に。
なんの扉かというと、駅員が待合室から窓口の中に入る、いわゆる業務用ドアってやつ。
その扉、雰囲気がそれっぽくてな。
錆が浮いてるし、ペンキもはがれてて、特に扉が開いた時なんか、ギィー……って地獄の底から音がするような――
え、何?
『開かずの扉だろ』って?
いや、開くよ、当然じゃん。
それ開かないと、駅員さん困るからね。
全然開かずじゃないって?
まあ、そうだな。
さっきも言った通り、『いかにも』それっぽいから、俺たちが勝手に『開かずの扉』て呼んでたの。
子供だったからな、楽しければよかったわけ。
で俺達が勝手に盛り上がって、いろんな噂をしたわけよ。
あの扉は開かない、いや開けたら連れて行かれる、とか。
で、それを聞いてみんな『怖い』とか『やべえ』とか言って楽しむんだ。
みんな嘘だと知っててね。
電車通学じゃないやつは信じてたかもしれないけど、まあ怪談ってそんなだよね?
今思い出しても懐かしい。
俺の忘れがたき故郷の思い出だな。
ああ、そんな顔すんなって。
ここまでは前座。
俺が本当に忘れられないことは、これから話すことなんだ。
そんな感じで楽しく、『開かずの扉』で盛り上がった学校生活も3年目。
季節は……たしか今ぐらいだったと思う。
学校の近くのコンビニで漫画を立ち読みしてたら、電車の時間が近い事に気が付いたんだ。
慌てて駅に走ったわけ。
都会では考えられないけど、故郷は田舎で、電車が30分に1本なんだよ。
だから遅れまいと、全力で走ったんだけど、待合室まで行ったところで、なんと目の前で電車が出発。
俺、その場で力が抜けて、その場でへたり込んだのを覚えてる。
少し放心した後、地面に座るは行儀が悪いと思って、這って近くの椅子に座ったんだ。
電車が出発したばっかりで待合室はガラガラだったから、椅子は選び放題だった。
次の電車まで、何をして時間を潰そうかと考えていた時に、一人のおっさんが走って来たんだ。
おっさんも電車に乗り遅れまいと走って来たみたいなんだけど、まあ、俺と同じで乗り過ごしたんだ。
でもおっさんは、俺と違う反応をした。
キレたんだ。
『なんで、俺が来るまで待たないんだ』ってね。
遠くから見ていただけなんだけど、アレは酒を飲んでいたね。
で、突然のクレームに駅員が驚いて、窓口から出てくるわけよ。
『開かずの扉』を通ってね。
駅員さんも酔っ払いに慣れているのか、『マアマア』とか『落ち着いてください』ってなだめていたんだ。
でも、おっさんにはそれが不満だったらしくて、『お前じゃ話にならん、駅長と話す』って言って、窓口に入ろうとしたんだ。
『開かずの扉』からね。
そこで、駅員が止めるわけなんだけど……
「そこは開きません。『開かずの扉』です」
って、それこそ、本当に地獄から響いてくるような、とても低い声で……
顔こそ笑顔だったけど、得体のしれないものを感じてビビった。
さっき『開いてたじゃん』とか反論を許さないような、妙な気迫があった。
おっさんもビビったらしくって、『そっか、じゃあ仕方がないな』って駅を出ていったんだ。
どこ行ったかは知らん。
興味なかったからな。
それで駅員は、おっさんが去った後、俺のほうに向いて、
「お騒がせして申し訳ありません。 何かありましたら窓口へ」
って言って窓口に戻っていったんだ。
一番近い『開かずの扉』を使わず、わざわざ遠回りしてホーム側にある扉まで行って……
俺、そこで思い出したんだ。
確かに、駅員があの扉を使ったところは見たことがある。
けれど、内側から出るのは見たことあるけど、外側から入っていくのは見たことが無いって……
俺、今気づいたことがとんでもなく意味不明過ぎることに怖くなって、そのまま駅を出て、家まで走って帰った。
外は暗くなるくらいに家について、帰ってからは自分の部屋で布団に包まってガタガタ震えていた。
俺、怖くなって、電車通学を辞めて、自転車通学にして、そのまま卒業まで自転車で通った。
それ以来あの駅に行ってないんだけど、地元の友達に聞いた限りでは『開かずの扉
』はまだあるらしい。
肝試しに行くって?
場所は教えてやるから、おまえらだけで行け。
俺はいかない。
俺、今でも怖いんだ。
目の前で起こった意味不明な出来事。
自分が知っていると思った事が、全然得体のしれないものだと気づいた時の恐怖。
あの時に感じた、現実感が急になくなる浮遊感。
忘れられないんだ、いつまでも。
ずっと。
俺はあの扉が怖い。
5/10/2024, 3:20:05 PM