G14

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 う、嘘だろ。
 全員で、俺をドロ4で狙い撃ちしやがって。
 
 分かった。
 分かってるよ、『UNOで負けた奴は面白い話をする』だよな。
 覚えてろよ。

 で、お題は?
 『忘れられない、いつまでも。』?
 また変なお題を……
 と言っても忘れられないことなんてないぞ。

 俺の人生に特に波乱もなく、お前らと違って堅実な人生を送ってるから、別にそういうのは――
 あ、一つあったわ。
 でもあの話は……

 いや待て、そんな前のめりになるな、分かったから、話すから。
 まったく……
 なんなんだよ、その食いつきは……

 コホン。
 えー、俺が中学生の時の話。
 俺、中学生の時は電車通学だったんだ。
 自転車か電車かっていうギリギリの距離だったけど、まあ、ちょっとだけ背伸びたくてね。
 電車通学にしてもらったんだ。

 それで毎日、通学の時、駅で乗り降りするわけなんだけど、あったんだよ。
 『開かずの扉』。
 学校の最寄り駅の待合室に。
 なんの扉かというと、駅員が待合室から窓口の中に入る、いわゆる業務用ドアってやつ。

 その扉、雰囲気がそれっぽくてな。
 錆が浮いてるし、ペンキもはがれてて、特に扉が開いた時なんか、ギィー……って地獄の底から音がするような――

 え、何?
 『開かずの扉だろ』って?
 いや、開くよ、当然じゃん。
 それ開かないと、駅員さん困るからね。
 全然開かずじゃないって?
 まあ、そうだな。
 
 さっきも言った通り、『いかにも』それっぽいから、俺たちが勝手に『開かずの扉』て呼んでたの。
 子供だったからな、楽しければよかったわけ。
 で俺達が勝手に盛り上がって、いろんな噂をしたわけよ。
 あの扉は開かない、いや開けたら連れて行かれる、とか。
 で、それを聞いてみんな『怖い』とか『やべえ』とか言って楽しむんだ。
 みんな嘘だと知っててね。
 電車通学じゃないやつは信じてたかもしれないけど、まあ怪談ってそんなだよね?

 今思い出しても懐かしい。
 俺の忘れがたき故郷の思い出だな。
 ああ、そんな顔すんなって。
 ここまでは前座。

 俺が本当に忘れられないことは、これから話すことなんだ。
 そんな感じで楽しく、『開かずの扉』で盛り上がった学校生活も3年目。
 季節は……たしか今ぐらいだったと思う。

 学校の近くのコンビニで漫画を立ち読みしてたら、電車の時間が近い事に気が付いたんだ。
 慌てて駅に走ったわけ。
 都会では考えられないけど、故郷は田舎で、電車が30分に1本なんだよ。
 だから遅れまいと、全力で走ったんだけど、待合室まで行ったところで、なんと目の前で電車が出発。
 俺、その場で力が抜けて、その場でへたり込んだのを覚えてる。

 少し放心した後、地面に座るは行儀が悪いと思って、這って近くの椅子に座ったんだ。
 電車が出発したばっかりで待合室はガラガラだったから、椅子は選び放題だった。
 次の電車まで、何をして時間を潰そうかと考えていた時に、一人のおっさんが走って来たんだ。

 おっさんも電車に乗り遅れまいと走って来たみたいなんだけど、まあ、俺と同じで乗り過ごしたんだ。
 でもおっさんは、俺と違う反応をした。
 キレたんだ。
 『なんで、俺が来るまで待たないんだ』ってね。
 遠くから見ていただけなんだけど、アレは酒を飲んでいたね。

 で、突然のクレームに駅員が驚いて、窓口から出てくるわけよ。
 『開かずの扉』を通ってね。
 駅員さんも酔っ払いに慣れているのか、『マアマア』とか『落ち着いてください』ってなだめていたんだ。
 でも、おっさんにはそれが不満だったらしくて、『お前じゃ話にならん、駅長と話す』って言って、窓口に入ろうとしたんだ。
 『開かずの扉』からね。
 そこで、駅員が止めるわけなんだけど……

「そこは開きません。『開かずの扉』です」

 って、それこそ、本当に地獄から響いてくるような、とても低い声で……
 顔こそ笑顔だったけど、得体のしれないものを感じてビビった。
 さっき『開いてたじゃん』とか反論を許さないような、妙な気迫があった。

 おっさんもビビったらしくって、『そっか、じゃあ仕方がないな』って駅を出ていったんだ。
 どこ行ったかは知らん。
 興味なかったからな。 

 それで駅員は、おっさんが去った後、俺のほうに向いて、
「お騒がせして申し訳ありません。 何かありましたら窓口へ」
 って言って窓口に戻っていったんだ。
 一番近い『開かずの扉』を使わず、わざわざ遠回りしてホーム側にある扉まで行って……

 俺、そこで思い出したんだ。
 確かに、駅員があの扉を使ったところは見たことがある。
 けれど、内側から出るのは見たことあるけど、外側から入っていくのは見たことが無いって……
 俺、今気づいたことがとんでもなく意味不明過ぎることに怖くなって、そのまま駅を出て、家まで走って帰った。
 外は暗くなるくらいに家について、帰ってからは自分の部屋で布団に包まってガタガタ震えていた。

 俺、怖くなって、電車通学を辞めて、自転車通学にして、そのまま卒業まで自転車で通った。
 それ以来あの駅に行ってないんだけど、地元の友達に聞いた限りでは『開かずの扉
』はまだあるらしい。

 肝試しに行くって?
 場所は教えてやるから、おまえらだけで行け。
 俺はいかない。

 俺、今でも怖いんだ。
 目の前で起こった意味不明な出来事。
 自分が知っていると思った事が、全然得体のしれないものだと気づいた時の恐怖。
 あの時に感じた、現実感が急になくなる浮遊感。

 忘れられないんだ、いつまでも。
 ずっと。
 俺はあの扉が怖い。

5/10/2024, 3:20:05 PM