距離
──『距離』が重要だ。
私はそう考えた。
いま目に見えている敵は、本体ではない。おそらく、一定の射程範囲内に侵入したものを自動的に迎撃するシステムのようなものだ。射程に入らない距離を保ちながら、通路を突破しなければならない。
奴は当然、通路の出口を塞ぐ形で鎮座している。出口から引き剥がすには……囮が必要だ。
私は奴に始末されたのであろう、打ち捨てられていた死体に術を掛けた。奴に向かって真っ直ぐ歩かせる。反応は……ない。
死体には反応しないのか。確かに奴の足元にはいくつもの死体が転がっているが……単に動くものに反応するのではなく、生きているか死んでいるか判断できるのか。……いや。
私は死体を一度戻らせ、火をつけた。肉の焦げる酷い臭いが通路に立ちこめる。私が再び術をかけると、死体は頭から煙を上げながらのたのたと敵に向かっていった。
生き物か否かを判断するのに手っ取り早い方法の一つは体温の有無を確かめることだろう。果たして、当たりだった。敵は燃える死体に光線を放ち、死体は吹っ飛んだ。まだ火のついている死体の破片を追って動き始める。
私は更にもう一体、死体を燃やし、出口と反対側に向かわせた。死体の破片を追っていた敵の射程圏内にもう一体の死体が入ると、敵は更にその死体を追って攻撃を続ける。
死体が充分に敵の距離を稼いだことを確認し、私は素早く通路を抜けた。扉を閉めると、ひやりとした空気に包まれる。
私は呼吸を整え、さらに続く道を睨んだ。本体との対決が迫っている。
12/2/2023, 9:37:12 AM