「静寂の中心で」
隣の席の子は無表情だ。
呼び出されても、誰かに声をかけられても、冷たい眼差しで彼らのことを見る。
別に、仲良くなりたいわけじゃない。
でも、何となく、私と似ているような気がした。
そして彼女は、学校へ来なくなった。
「長谷川さ〜ん
今日一緒に帰らない?」
「うん、帰ろ〜」
あの子は、本当に1人だったのだろうか。
今思えば、1人ではなかっただろう。だが、独りであった。
彼女はいつも寂しそうに本を読んでいた。本を見つめる瞳はどこまでも優しかった。
彼女はどこか人を寄せ付けなかった。“あなた達と関わりたくない”そんなふうに言っているような気がした。
かという私も、“ともだち”と、名ばかりだけの関係を周りと築き、私は、自身と向き合えていない。誰とも向き合えていない。
彼らのことを信じる、それは私にとっては心臓を彼らに預けるのと同義であった。
私は、誰かに握られる、誰かのものになる、そういうのが嫌だった。
「ねえねえ、昨日のテレビみた?」
「見てない〜」
「ひどーい!昨日は私の推しが出るから見てって言ったじゃん!」
彼女はかわいい。
素直に自分を表現している。
それをよく思わない人もいるが、私はそんな彼女が好きだ。
「ごめんね、でも録画してあるから今日みるね。」
「……うん。
……ねぇ、長谷川さん、私の事嫌い?」
「私が誰かを嫌うなんて、そんなことは今後ないよ。」
これは本当だ。
誰かを嫌いだと思える瞬間があるなら、私はその間に誰かのことを好きだと思いたい。
「なら、好き?」
「うん、好きだよ
昨日は課題が終わらなくて……そういえば、やった?」
「……!!忘れてた、教えて欲しい……!」
「うん。いいよ。」
素直で、真面目で、そして少しだけ自己中心的。
振り回されることが多く、彼女はよく突っ走るが、気づいたら私の横にいる。
そして、彼女が私のことを好きなのは目に見えてわかる。
真っ直ぐに愛を表現してくれるこの子は、私にとってかけがえのない存在だ。
「そういえば、隣の……えっと……糸川さん?学校来ないね。風邪が長引いてるのかな。」
……まさか、本当に風邪だと思ってるのかな。
まぁいいや。
「うん。そうだね。
……そんなに気になるならお見舞いに行く?」
「行く……!!って思ったけど、家の場所わかんない……」
「ふふ、先生に言ってプリント届けに行こうか。」
「うん!
早く治るといいな〜」
この子が笑ってくれるなら、私はなんだってする。
誰もいなかったこの静寂な世界で
彼女は私に音を授けてくれた。
色を付けてくれた。
人は、これを“感情”と呼ぶ。
10/7/2025, 10:32:26 PM