目の前に子猫が転がっていた。転がっていたというと間違いか。
それは、僕の足元に生まれたての子鹿のように弱々しくその地面に立っていた。いや、生まれたてなのは事実なんだろうけど。
今すぐにでもポキリと小枝のように細い足だった。力を入れて仕舞えば目の前に足のない猫が出来てしまうような気もする。
「…にゃあ」
か細い声で鳴いた。
それは彼らにとって命乞いのようなものなのだろうが、僕にとってはただ鳴いたようにしか見えない。
自分が彼らに蹴りをつけないといけないのだ。
「やるしかないか…」
そんなことはとっくに承知している。
自分に思いを託してくれた仲間たちのためにも。
それにしてもこいつも哀れなものだ。
せっかく生まれてきたというのに、自分が一族最後になるなんてな。
数年前。人類は進化した猫どもに侵略された。
賢い頭と、人間よりも素早い動き、そして何より凶悪だったのがフェロモンだった。
猫の見た目の可愛らしさは言わなくとも分かるだろう。それを武器にしたのだ。
ベビースキーマという言葉を知っているだろうか。
赤ちゃんは可愛らしく見えて母性が芽生えるとかそういうやつだ。人間に備わっているそれを猫どもは目をつけた。
要するに可愛さで人間を駆逐した。
それだけだ。そんなことのせいで僕の家族やかけがえのない仲間は殺された。
だが、人類の努力によって猫どもは目の前にいる子猫のみになった。
子猫は地面に転がっているたくさんの屍の上に立っている。
「じゃあな。お前も来世は猫になんて生まれるなよ」
もう僕にとっては猫なんて可愛さなんて微塵も感じられない。
ただ憎しみだけだ。
僕は手に持っていたナイフを振り下ろし、人類の脅威にけりをつけた。
11/15/2023, 10:54:28 AM