池上さゆり

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 正夢ほどこわいものはなかった。夢の中で見た景色が現実になるたびに、私は恐怖でいっぱいになった。
 でも、夢を見ればそれが全て正夢になるというわけではなかった。五回か、十回か、そんな中に一回の頻度。大抵は全然知らない人の身に起こる不幸ばかりを見ていた。だから、深くは考えないようにしていた。所詮は他人の出来事なのだと、割り切るようにしていた。
 そんなある時、他人ではない誰かが夢の中に出てきた。目が覚めても、誰だったのかは思い出せない。それでも、確かに知っている顔だったと焦る。もう一度、同じ夢が見れますようにと祈って眠りにつく。
 そして、やっと現れた景色は学校の帰り道だった。目の前にいるのは何度も追いかけてきた好きな人の背中だった。後ろ姿だけで判断できるぐらいには何度も後をつけていた。ただの帰り道かと思っていたら、交差点に差し掛かったところで、信号無視をした車が猛スピードのまま走ってきた。そして、目の前にいた私の好きな人は車と衝突して遠くまで飛ばされてしまった。衝撃的な光景に私は固まってしまった。
 だけど、すぐに頭を動かして周囲を見渡した。ここがどこで、時間は何時なのか。知っておかないと助けられない。夢が醒める前に私は必死に情報を得ようと探した。だけど、きちんとした情報を得る前に、夢から醒めてしまった。
 次の日、私はすぐに作戦を立てた。いつ現実になるのかわからないのなら、なにかと理由をつけて一緒にj帰るしかない。だけど、悲しいことに私は彼に嫌われていた。一緒に帰ろうと誘っても断られるばかりだったから、バレないように後をつける日々が続いた。
 そして、あの日見た交差点に近づいたところで一気に距離を縮めた。道路の方を見ると車が一台まっすぐこちらに向かって走っていた。急いで彼の制服を掴もうと手を伸ばした。だけど、その距離はあと数センチといったところで目の前から消えてしまった。間に合わなかったのだと、理解した途端私はその場に崩れ落ちた。
 結局、あんな夢を見たところで救える命なんて一つもなかったのだ。

3/20/2024, 11:06:16 AM