傾月

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暗い通路の角を曲がると、視線の先が明るい。次の課に着いたようだ。
足を踏み入れると、ここも色々な形をした蝋燭で埋め尽くされている。ただ、イヌとネコが多い気がする。もしかしてペット課?とつぶやくと、「惜しい。ここは愛玩動物課です」と上から声がした。驚いて声のした方を見ると、黒いローブを纏ったの死神が梯子から降りている最中だった。「驚かせてすみません。うちの備品庫、なぜかロフト式で」そう言いながら梯子を降りきった死神が振り向くと、面はキリンだった。ここの皆さんは動物の面ですか?と訊くと、「そうです。私はキリンですが、他にも色々いますよ。ライオンとかウシとか、フクロウなんかもいます」そう教えてくれた。
「ご案内しましょう」そう言いながら歩き始めた死神について行く。辺りを見回すと、やはりイヌとネコが多い。ただ中にはリクガメやモモンガ、文鳥やコイなどが見え、ペットも多岐に渡るんだな、と感心していると「近頃は愛玩動物も色々いますねぇ」と死神が同じようなことを言うので少し笑った。「昔はほとんどイヌかネコ、魚ならコイか金魚くらいなものでしたけどねぇ」昔とは、一体どれくらい前を指しているのか、この死神はいつからいるのか、そしてはたして死神に寿命はあるのか。そんな考えたちが頭の中に次々と浮かんでは消えた。
突然、目の前のネコの蝋燭が消えた。驚いていると「それは、寿命より前に唐突に命を奪われた時に起こる現象です。」と死神が静かに言う。唐突にということは、事故とか?と訊くと、「そうですね。事故も有り得ます。そして殺害の場合も」息を呑んだ。そうか、殺害は確かに唐突だ。そしてこのことにより、記憶の蓋が開いた。
中学の時の同級生が、卒業の数年後に小動物虐待の容疑で逮捕された。卒業後も、同級生数人で遊びに行ったりオンラインゲームをしたりする仲だった。その逮捕の数時間前、グループLINEに「みんな、こんなオレでゴメン」というメッセージをあげたきり、アイツは俺たちの前からいなくなった。何がアイツをそうしたのか、みんなで話してみたが、結局何も解らなかった。当時、その事件はかなり騒ぎになったが、程無く世間は日々に忙殺され忘れてしまったようだった。斯く言う自分も、記憶に蓋をしていたのだから、同じ穴の狢だ。あれ以降、他の仲間たちと会う機会もなくなってしまった。
「大丈夫ですか?」声をかけられ我に返った。黙って思考を巡らせていたせいで、心配をかけてしまった。大丈夫です、すみません。と答え、また歩を進めた。
消えていくネコの蝋燭を見ながら、ここにある蝋燭の数だけこの世界には命がある、そんな当たり前のことをもう一度噛み締めた。


―――死神洞窟ツアー [愛玩動物課篇]


     #68【命が燃え尽きるまで】【君からのLINE】

9/16/2023, 9:58:33 AM