薫雨

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【喪失感】

フリマアプリで大体100000円。
それと二度と手に入らない、金額で言うなら青天井の思い出。
それが私の手放した、捨ててしまったものの価値だった。



あの時守れなかった大好きの証たち。
推しのグッズを大量に並べた、見ているだけで幸せになるような棚。

ある日お母さんは宣われた。
『あんたもうあんなものから卒業したら?』
『お金の無駄よ、高いんだし』

衝撃で反論できなかったのを肯定ととられたのか。
次の日には全てなくなっていた。

少しずつ買い集めたトレーディングカード、クレーンゲームがうまい友人に頼み込んでとって貰ったフィギュア、自作のキーホルダーに誕生日に絵のうまい友人から貰った額縁に入れておいた最高のファンアート、縁日のくじ引きでダメ元で引いてみたら来てくれたぬいぐるみ。思い出の詰まる品々。

私は静かに泣いた。
守れなくて、ごめんなさい。
反論できなくて、ごめんなさい。

そんな、私にとっては恐怖しか感じないようなことをしたお母さんが怖くて。
なんでそんなことをしたかなんて聞けるわけもなかった。


現実に置いておけば奪われる。
そう直感した私は画面の中に救いを願った。

課金なんてしたらバレてしまうから頑張ってポイ活して貯めたポイントを注ぎ込んで依頼して、似姿のアイコンと壁紙とを手に入れて。

それはそれでとても嬉しかった、依頼させていただいた人はずっと憧れている人だったのだから。

けれど毎朝、私は思い出すのだ。
からっぽになった棚を見て。
沢山の好意と繋がりの証を喪って、私にもからっぽの穴が空いていた。

学校に行く前、かならず推しに声をかけていた。
『いってきます』『ばいばい』
大切なルーティーン。
だけどからっぽになった棚に声をかけてみても、心は空虚なままだった。


画面をスクロールして、名残惜しく見つめてからポンと閉じる。
年をかさねて大人に成長した今になって買い集めても、あの時のあの子達は戻らない。
からっぽを抱いた、声を圧し殺して泣く従順だった子供の私はいつまで進めないままでいるのだろう。

私はいつまで戻らないものを探しているのだろう。

9/11/2024, 8:13:27 AM