「やだ!やだよ!行かないでよ!」
悲痛な叫び声が木霊する。
女の声は高く震えている。
「離れないで!ずっと一緒にいるって言ったじゃん!」
服の袖を掴まれている男は申し訳なさそうにしながらも、体は女とは反対の方向を向いている。
「言ったけど……。ごめん。でも俺行かなきゃ」
「いや!離さない!」
「すぐ戻ってくるから!」
「でも!」
二人の言い合いを通りすがる人が見ている。
痴話喧嘩か何かと思ったが、男の次の一言で集中していた視線や野次馬は解散となった。
「君のことは離さないよ!けど、トイレだけは行かせてくれ!」
女がすがる袖を振りほどき、男は限界と言わんばかりに足早に男子トイレへと向かっていった。
/11/3『行かないでと、願ったのに』
11/3/2025, 11:21:48 PM