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広い庭園の隅に植えられたハイドランジアの前に、小さな水色の傘と小さな長靴を履いた、小さな女の子を見つけた。
俺は安堵なのか何なのかよくわからないため息をつきながら呼びかける。

「お嬢」

弾かれたように振り返った彼女の青灰色の瞳には、今にも零れ落ちそうな程の涙の雫が溜まっていた。
慌てて袖でゴシゴシと拭って誤魔化そうとするものだから、目の下が真っ赤になる。

「ひでえ顔」
「……」
「風邪ひくぞ。こんな雨の中」
「……っ」

水色の傘が濡れた地面にころころと転がる。
抱きついてきた小さな体を受け止め、持っていた大きな傘に一緒に入れてやる。

「学校、上手くいってないんか?」
「……」
「……おぉい」
「……いわないで。とうさまにも、かあさまにも」

了解、と答える代わりによしよしと頭を撫でてやると、甘えるみたいに額を擦り付けてきた。
それから暫く俺は、お嬢の顔を胸に埋めたまま雨に濡れたハイドランジアから零れ落ちる雫を眺めていた。
泣くだけ泣いて気が済んだのか、彼女は顔を上げると気まずさと照れくささの混じった顔で見つめてくる。

「部屋に戻るか?」
「……」
「んー。じゃ、とりあえず俺の部屋でホットミルクでも飲んでく?」
「……ハチミツは?入れてくれる?」
「もち」
「……いく!」

ああ、やっぱりコイツは笑顔のほうが似合うな、なんて思いながら。
俺たちはひとつの傘にくっ付き合ったまま、笑い合いながら歩き出した。


──これはまだ、俺たちが“兄妹みたいだ”って言われてた頃の話。
ハイドランジアの傍に残された小さな傘は、雨が上がった頃に“家族”の誰かが拾ってくれたみたいだ。

6/13/2024, 1:52:33 PM