「率直にお聞きします。柴田さんは、どういう気持ちで雫と付き合ってるんですか」
「……どういう?とは、」
水無月から、「すみません、柴田さん。ともだちと会ってほしいんです」と言われたのが、一週間前。
切り出しづらそうに、目を合わせずに彼女は言った。
「ともだち?」
「幼馴染っていうか、古い付き合い。もう親戚みたいな腐れ縁、みたいな」
説明が難しいのか、考え考え、彼女は言う。
娘の深雪を交えて、あちこちに出歩くようになった頃だった。会社ではもちろん、一線を引いている。上司と部下として。
でも、プライヴェートではゆるゆるだった。
そんな中、突然ぶっこまれた事案。「ともだちと会ってほしい」=(イコール)「親友による、悪い虫かどうかあたしが確かめてやろうじゃないかチェック」が来た!と俺は察した。
いいよと返事をして、待ち合わせたのはちょっとだけランクのいい居酒屋。仕切りじゃなく、ちゃんと個室を予約してきた。
そこでお目にかかったのが、大日向晴子さんだった。水無月が紹介するに、「晴れ女」の末裔だという。
たしかにそれっぽい名前。しかし、当の本人といえば、醸し出す雰囲気が何とも暗いというか、じめっとした質感の女の人。
前髪が、目にかかるほど長いのがそう見せるのかもしれない。表情がよく見えないから。あと、鼻の付近に散ったそばかす。
度の強い眼鏡をかけているのも、目が見えずに心もとなくさせた。
「初めまして、柴田です」
俺は営業スマイルを浮かべて、当たりさわりのない挨拶をした。
「……ども」
大日向さんは、ぼそっと言ったきり、タブレットでメニューを操作する。
自分が食べたいものをタップしていくつか注文をした。それきり、じっと手を膝に置いて俺を伺っている。
……気まずい。
場を取りなすように水無月が「柴田さん、これ美味しそうですよ。注文しません?」と声をかけてくれたが。何を選んでも味がしないような気がする。俺は無理に笑って「いいね、あ、飲み物も適当に頼む」と言った。
「わかりました」
タブレット画面を水無月が操作する。それきり沈黙。き、気まずい。
と、思っていたらおもむろに水無月がバッグを片手に立ち上がり、「すみません、お手洗いに行ってきます」と席を外した。
行かないで、と咄嗟に思った俺はヘタレだ。でも、大日向さんと二人きりにしないでほしい。本音だった。
これから、俺への取り調べが始まるんだ。
その予感は、的中した。
#行かないで
「通り雨6」
10/24/2024, 2:42:30 PM