そんなことを望まれても困る。舞台はもう終わりの終わり。残すところ君のセリフただひとつ。ひるがえる身体が、浴びるライトが、つくりだされる陰影が、響き出す音色が、固唾を呑む観客が、少しばかり冷たいホールが、君のおわりの合図を望んでいる。夢はここでおしまい。君は私に視線を寄越す。刺すような視線を。針でもナイフでもなくただ君という存在が私を刺す。残念、終わらなければ。私の可愛い人。今宵の物語は過去最高の出来だよ。天上の神、地上の人間、あるいは悪魔と呼ばれる者たちが、立ち上がり拍手をする準備すら忘れるほどに。さあ、その手に握ったトカレフに込めた弾丸で私を撃ち抜いてくれ。私だけが君のセリフを聞く前にこの舞台から立ち去れる。だから私だけが君を永遠に終わらせることがない。悪いね、私の可愛い人。
11/28/2023, 5:11:09 PM