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暑い。

一服しようとベランダに出たが、こうも暑いとは。
すぐに吸って、早く部屋に戻ろう。

そう思いながら火をつける。

ふと、視界の端に何かが映った気がして目を向ける。
そこには、隣の家から伸びてきた緑の茎があった。

大きな葉には細かい産毛のような毛がふわふわと揺れている。
思わず手を伸ばす。

ふわふわしていそうに見えたそれは、触れてみると意外にざらざらしていて、軽く撫でただけでも少し痛いくらいだった。

くるくると巻いた蔓にも指を絡める。
ためしに引っ張ると、思いのほか長く伸びて、これで支柱に巻きついていくのかと思うと、不思議な気持ちになった。

ひとしきり触ったあと、空を見上げ、煙草を吸う。

そろそろ部屋に戻ろうかと腰を上げかけたとき、隣の家のベランダの戸が開く音がした。

思わず動きを止めると、隣のベランダから、ひょいと隣人が顔を覗かせた。

相手は俺以上に驚いたようで、目を見開いたが、すぐに持ち直し、

「こんにちは!すみません、そちらまで伸びてしまって」

眉尻をわずかに下げながら、顔や体格に似合わないくらい、はきはきとした口調で言った。
そう言いながら、茎に手を伸ばし、自分のベランダ側へ慣れた手つきで戻していく。

「いえ、大丈夫ですよ」

「何を育ててるんですか?」俺はつい尋ねた。

「きゅうりです。緑のカーテンにするつもりなんですけど、まだ準備が整ってなくて」

そう言ってから、照れたように笑い、

「気温が上がって、急に伸びちゃったんです」

と付け加えた。

テーマ: カーテン

(ここから、きゅうりをお裾分けして仲良くなっていく王道展開)

6/30/2025, 11:25:13 AM