どすこい

Open App

「手放す勇気」

小さい頃から、なんでも溜め込んでしまう癖があった。食べ終わったお菓子の箱、小さくなってしまった鉛筆、綺麗な包装紙など。もう使わない、もういらないとわかっていても、なぜか手放せない。この気持ちだってそうだ。こうしていつまでもうずくまって、ウジウジしていることを君は喜ばないことなんてわかっている。それでも、いつまでも気持ちに沈んで何もしないでいたいと思ってしまう。この気持ちは手放さなければならない。
君は死んだのだから。僕のせいで。
あの日君は駅前で僕のことを待っていた。一緒にレストランに行こうという約束をしていた。そこで指輪を、結婚指輪を渡そうと思っていたんだ。なんて言いながら渡したらいいのかわからなくて、考えながら向かっていたら待ち合わせの時間に遅れてしまった。本当に、少しだけ。それでも、着いた時にはもう遅かった。駅前がなんだか騒がしくて、嫌な予感がしていた。こういう時の予感というものは、よく当たってしまうものだ。
事故だった。僕にはただ、血に濡れて救急車で運ばれていく君を見ていることしかできなかった。飲酒運転のトラックが飛び込んできたらしい。即死だったそうだ。待ち合わせに遅れていなければ。そもそもあの日呼び出していなければ。一日中後悔ばかりしている。こんな僕の姿を見たら君は、「もう、馬鹿だなぁ」と笑うだろうか。そんな姿を思い出すだけで、涙が出てくる。それでも、このままぼーっとし続けるわけにはいかない。
まだ新しく、日光を浴びてキラキラと輝く君のお墓。あの日渡せなかった指輪と愛の告白。目をつむって手を合わせていると、「私のことなんて忘れて、元気に過ごしてよ」という君の声が聞こえた気がした。あの時ああしていれば、なんて後悔の言葉は手放そうと思う。でも、君のことを思う気持ちだけは、この恋心だけは、何があっても手放さない。

5/16/2025, 11:54:30 AM