かたいなか

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「11月1日のお題が『永遠に』だったわ」
花束といえばどうしても、「ミーに感謝するでしゅ」を思い出してしまう某所在住物書きである。
別にその映画を観たワケではないが、情報ならネットでいくらでも拾える。
あのゲームには丁度、「永遠」にまつわるバグがあった。「花束」を得るために暗闇の中を、座標を合わせて上下左右、特定の道具を使って、
一歩間違えば永遠に、謎の場所に縛られるのだ。

「懐かしいなぁ」
ゲームに関しては、プレイ済みの物書きである。
「たしか『あなぬけのヒモ』でセーフだった」
花束バグの永遠も経験済みであった。

――――――

枯れない花束なら知っている物書きです。
それはたとえばドライフラワー、あるいはガラス工芸品、アメ細工もきっと該当するでしょう。
ただ「永遠」かと言われると、少々言葉に詰まる。
仕方がないので無理矢理に、永遠っぽい花束を登場させるおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは、異世界渡航の申請を受理したり、滅びそうな世界のチートアイテムが他の世界に流れ着かないように回収したり、
あるいは、その世界が「その世界」で在り続けられるよう、別世界からの過剰干渉を取り締まったり。
厨二っぽい仕事を真面目に、世界運行の重要な歯車のように、続けておったのでした。

そんな世界線管理局は、勿論危険で物騒な世界間の紛争調停にも向かいますし、
「世界に必要なのは多彩な交流と多様性だ!」とアンチ管理局を掲げる団体との衝突もあります。
結果として、実働班や戦闘員が命を落としてしまうことも、まぁまぁ複数回。

殉職した局員には、管理局内の「慰霊棟」と呼ばれる建物の中に、ひとつの墓碑が授与されます。
各部署ごとに、この部署は何階、その部署は何階。
そのひとをあらわす言葉や宝物とともに、
静かで、常時一定の暖かさの中で、
「帰還」できた者も、それが叶わなかった者も、それぞれ平等に、偲ぶ場所を与えられるのです。

さて、そろそろお題回収。
新しくみずみずしい、整えてきたばかりの小さな小さな花束を、小さな小さな身体にくくり付けて、
1匹の言葉話すハムスターな管理局員が、ひとつの墓碑の前に来ました。
「はぁ、小さいって、本当に苦労が絶えないなぁ」
ハムスターはビジネスネームを「カナリア」といいました。ハムなのに鳥って、妙なハナシですね。
まぁまぁ、細かいことは気にしてはいけません。

「先代部長。先代ルリビタキ部長。
今週も、花束を取り替えに来たよ」
ハムスターのカナリア、くくり付けていた紐を切って、新しい小さな花束を墓前にそなえて、
古い小さな花束を、むしゃむしゃ、食べました。
墓碑には、それが誰のものかを示す名前と、
生前使っていたビジネスネームと、
それから、このように書かれていました。

『彼を起こさないでください。
この墓碑の前で、空腹を申告しないでください。
我々は彼の、あたたかく優しく仲間思いに溢れたカロリーボムで、これ以上太りたくないのです。
――法務部執行課 実働班特殊即応部門 一同』

その墓碑は、カナリアと同じ課、同じ班、別部門の部長さん、先代の「ルリビタキ」のものでした。
先代のルリビタキに、カナリアは恩がありました。
危機を感じたときに大量の花粉をボフンするカナリアが「世界を崩壊させるリスクを持つ侵略生物」の亜種として駆除されなかったのも、
こうして管理局に仕事を得ることができたのも、
全部ぜんぶ、この墓碑の主のおかげでした。

「また来るよ先代部長。来週は、もっとキレイな花束を持ってくるよ」
そうです。これこそ、「永遠の花束」です。
この花束が枯れる前に、弱る前に、新しい花束を持ってきて、取り替えて、それが枯れ弱る前に更に新しい花束を持ってきて……
そうしてハムスターのカナリアは、自分の恩人の墓前に永遠の花束を、作り出しているのでした。

「じゃあね。先代ルリビタキ部長」
古い花束をむしゃむしゃ、むしゃむしゃ、食べて処理して、仕事に戻るためにカナリアが振り返ると、
「なんだ。お前も来ていたのか」
丁度、先代から「ルリビタキ」のビジネスネームと部長の役職を継いだ今の代のルリビタキ部長が、
こちらも新しい花束を持って、立っておりました。

「小さな体でここまで来るのも苦労だろう。
こいつの墓参りなら、前日でも朝にでも、俺に連絡を入れれば良いだろうに」
「じゃあ、帰りは僕を連れてってよ。その胸ポケットの中で昼寝するから」
ほらほら、僕をのせて。ポケットに入れて。
ハムスターのカナリア、今代部長を、ジェスチャーでちょいちょい急かします。

「ポケットの中で花粉ばらまくなよ」
「それはポケットの寝心地次第かな」
先代部長を偲ぶハムスターと今代部長は、1人と1匹して墓前に「永遠の花束」を作って、それぞれの職場に帰りましたとさ。

2/5/2025, 4:43:54 AM