(創作です)
(おや、予報が当たって帰りは雨になったな)
下校時、こともなげに傘を取り出して、昇降口から出ようとすると、向こうから言い合いが聞こえてきた。
「ん? お前傘持ってきてないのか? 珍しいな。そこまでなら入れてやってもいいぞ? ん?」
「うっ、うるさいわねっ、ちゃんと置き傘してたと思ってたのよっ。ただの思い違いだし」
「ふーん、猿も木から落ちるだな。で? 入ってくのか行かないのか?」
(ああ、いつもの二人だな)
こいつらは、校内ではほぼ誰一人として知らない者など居ない、我が校の名物カップルと言ってもいい。美男美女でもあり、もはや熟年夫婦かと見まがう丁々発止も見ものだ。
そして何より、双方頑なに「付き合ってなどいない」と主張するのだ。こんな面白い状況など今どき漫画でもなかなか無いかもしれない。無論エンタメとして消化してることについては皆正しく黙っているぞ。
せっかくなので、少し続きを追ってみようと思う。くれぐれも、見守っているだけだからな。
「し、仕方ないわね、入ってあげてもいいわ。ほら、早く来なさいよ?」
「はいはい」
案の定、彼君は彼女さん方へ傘を片寄らせ、自分が濡れるのを厭わず守ってあげている。しかしそこはそれ、キュンなどどこへやら、彼女さんは口をへの字に曲げて、
「ちょっと、こっちはいいから、自分が濡れないようにしなさいよ」
と、傘の軸の傾きを正そうとする。そこは彼君も負けじと、
「俺の高さだと、お前もっと雨に当たるぞ? 入れてやってるんだから大人しくしとけよ。それに、制服濡れて、シャツとか透けたら困るのはそっちだろ」
「そりゃあそうだけど……だからって、調子乗らないでよね? たまたま、本当に偶然、方向と時間が同じだったからに過ぎなくて、なのよ?」
「当たり前だ」
☆☆☆
これで、付き合ってないということらしい。いやはや、ごちそうさまでした。
6/20/2024, 9:55:56 AM