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ユリアさんは暑くて寝苦しい夜には必ず魘されている。
寝言でお義兄さんの名前や、聞いた事のない人の名前を呼んで、苦しそうにもがいている。
あんまりに苦しそうで見ていられずに起こせば、途端に泣き出してしまう。

俺が心配そうにしていると、一度だけ夢の内容を話してくれたことがある。

幼い頃に家が燃やされた時死んだ父や兄たちが、助けを求め、なぜお前は生き残ったのかと強い口調責めてくるのだと。
しかも時折、今生きているはずの兄たちや自分自身すら、苦しそうな顔でユリアさんに迫るのだそう。

しかも夢の中のユリアさんは幼い時のすがたのままで何も出来ず、ただ目の前で燃え盛る柱に相手が巻き込まれていくのを見ているしかなく、自分の無力さに苛まれる。
しかし、自分に向けられる罵声が聞こえなくなることにいつも安堵してしまい、そんな自分がただただ恨めしい、と。

俺は一度だけユリアさんが幼い頃に実家が「焼き討ち」されお義父さんが亡くなったことは知っていたが、他に亡くなったお義兄さんがいたことも、今もユリアさんがその出来事に苦しめられていたことも、知らなかった。
俺の中でそれはユリアさんの過去で、そうして話をしてくれるということはユリアさんはそれを乗り越えたとばかり思い込んでいたのだ。

「ユリアさん、今度お義兄さんのお墓参りに行こう。ユリアさんは何も悪くない、お義父さんも、お義兄さんたちも、誰もユリアさんを責めたりしないよ。
今どれだけ幸せか、笑って報告しようよ」

ユリアさんを抱きしめながらそう言うと、ユリアさんは泣きながらも力強く頷いた。

7/17/2024, 2:29:40 PM